相手を変えたければ、まずは自分を変える〜オフショア開発の失敗から学んだこと〜【株式会社Calme 青木 崇 氏】

青木 崇 氏 | 株式会社Calme

ベンチャー企業数社で、R&D、サービス開発に 約10年間従事。 米国法人の立上げを経て、2015年1月株式会社 i-plugに入社。 執行役員兼CTOとして新卒向け就活サービス 「OfferBox」の開発全般に携わる。
2022年ベンチャー企業への技術支援を行う株式会社Calmeを設立。

はじめに、現在のお仕事について教えてください!

株式会社Calmeを設立し、主に技術顧問と開発ディレクターをしております。

技術顧問としては、スタートアップ・ベンチャー企業様のトライアンドエラーの過程でエラーの数を極力無くすことをミッションにしてに取り組んでいます。特に上場までの過程で開発組織をどうやって作っていくかやIT監査の対応方法など、教科書には載っていないような部分に技術顧問として入らせていただいています。

開発ディレクターとしては、経営者とエンジニアの間に入って開発の管理・指揮をしています。経営者の方からヒアリングをして開発チームと共に作っていくのですが、もし先方の社内に開発チームがいない場合は、ベトナムのオフショア開発会社に声をかけ実装まで行っています。

オフショア開発に挑戦し、キャリア観が大きく変わる

これまで、どのような想いでキャリアを積んでこられたのでしょうか?

2015年より前はとにかく技術が大好きで、どんどん新しい技術に飛び込んでいくようなエンジニアでした。2006年に入社したメディアライツではR&Dや技術基盤構築などをやっていて、ご縁があり2012年からアメリカの子会社に行かせていただきました。現地のエンジニアと交流したり、向こうでサービスを作ったりなど当時の思考性には合っていたと思います。

しかし2014年に日本の会社の事情もあり帰国し、株式会社Warranteeに1号社員として転職しました。こちらはマンションの一角で始まった会社で、社員も4名しかおらず開発などを任せてもらいましたが、様々なギャップを感じ5ヶ月ほどで退職をしました。その数年間でアメリカでもWarranteeでもうまくいかず、それまで天狗だった僕の鼻が折られたような気持ちでしたね。

2015年に株式会社i-plugへ入社してからは、キャリア観が大きく変わりました。今までは私自身がどれだけ良いものを作れるかと、技術のことしか興味がなかったのですが、それよりも自分が培ってきたスキルや経験を誰のために使えるのかと考えるようになったんです。また、2018年に苦悩していたエンジニアの採用を解決すべく、当時はあまり評判が良くなかったオフショア開発に挑戦しました。現地のベトナム人と交流する中でボーダーはないと感じ、それから現在までオフショア開発を積極的にやってきました。

2018年から現在まで、オフショア開発にずっと携わられている理由は?

もちろんコストメリットもありますが、加えてやり方次第ではベトナム人と仕事がやりやすいことも大きいです。ベトナム人は素直で、マネージメントしやすく、その気質はオフショア開発に大事なことだと思っています。これまで、自社の開発組織を組成してきたこともありますが、30-40人以上の規模になってくるとマネジメントも大変ですからね。

対面で会うことが、オフショア先との良好な関係を構築する

青木さんが初めてオフショア開発に挑戦された際、どのような苦労をされたのでしょうか?

2018年のことだったんですが、当時とても忙しくて2-3日でも日本を離れてベトナムに行くのは厳しかったので、長い間直接会うことなく進めてしまいました。その結果、発注する側と請け負う側がハッキリしたドライな関係が出来上がってしまったんです。

私たちもあまり気持ち良く仕事はできていなかったのですが、人づてにオフショア先のエンジニア達も私たちに不満があると聞き、正直乗り気ではなかったですがベトナムに行くことにしました。

現地のエンジニアと面と向かって「うちの何が悪いのか、こういう不安を持っている」と腹を割って話ができました。それにより、彼らが自分達の正義を守るために一生懸命やってくれていることが、その場で初めてわかったんです。それからは関係が大きく改善し、そのチームを離れてからもオフショア開発をポジティブに捉えられるようになりました。

やはりオフショア先のエンジニア達と呼吸を合わせるのは苦労されましたか?

日本人より阿吽の呼吸ができるまでに時間はかかりますね。私たちが「ここまでやったら、ここもやってくれるよね」と思っていても、彼らは仕様に書いていなければやりません。指示されていないからやっていない、余計なことはしないという正義があるのだと思います。ノンバーバルなコミュニケーションができるまで時間はかかりました。

その価値観の違いはどのような部分で現れましたか?なにかエピソードを教えてください!

以前関わった開発案件で、オフショア先で作られた成果物がMicrosoft Edgeで動かなかったことがあったんです。彼らは「今どきのブラウザで動くようにとの指示だった、Edgeで動かせとは聞いていない」と言われ、「まあたしかにそうだけど、察してくれよ」と思いましたね。

言われたことに対して忠実に行うのが、彼らの正義・価値観なのでしょうか?

彼らにとっての正義は「作ること」だと思います。これは制作会社と事業会社のエンジニアが持つマインドの違いも関係しています。事業会社は作ることがビジョンを実現する手段なのに対して、制作会社はお客様の要望通りに作ることが正義です。

オフショア開発をする際、作ってほしい部分だけでなく、要望をするに至った経緯や全体像も伝えた方が良さそうですね。

仰る通りです。その理由は2点あると思っています。1点目は、そもそもバックグラウンドが違うからです。ある開発案件で、日本の大学生の就職活動を扱ったことがあったのですが、そもそもベトナム人から見れば「日本の大学生は4年生で就職活動をして、新卒として雇われる」が当たり前ではないため、日本の就職活動については事前に説明しました。

2点目は、職種と仕事が明確に分かれているからです。ベトナムの多くの企業では、エンジニアとテスターが明確に分かれており、エンジニアは自分が作ったものをサラッとしかテストせず、それはテスターの仕事だと考えています。繰り返しになりますが、日本の当たり前とはギャップがあることは当然だと思った方が良いでしょう。

対面で会えない場合はどうする?オンラインミーティングの工夫

英語や日本語など、言語の壁はどのように乗り越えたのでしょうか?

機能や画面の説明は、コミュニケーターを介して時間をかけてでも日本語で説明をします。一方で、非機能要件は専門的になるので、コミュニケーターも適切に翻訳ができなくなる場合があります。これはしょうがないです。そういった時は、英語の資料を使って日本語で説明することが結構あります。

世界的な感染症流行で海外渡航が難しくなり、変わったことはありましたか?

以前携わったプロジェクトで、ベトナムにキックオフのタイミングで行く予定でしたが、コロナ禍でいけず、その後はお互い淡々と仕事をしていたことがありました。面と向かって話せば改善するのになと、もどかしかったですね。

やはり対面で会わないと難しいのですね、何か工夫はしていましたか?

リモートワークにも、元々会ってた人がオンラインになった場合と1度も会ったことのない人と仕事をする場合の2パターンがあります。私はベトナムのメンバー数人と会ったことがありましたが、会ったことないメンバー同士は関係も良好とは言えなかったですね。

工夫としては、長い大規模なミーティングを週に1回するのではなく、10分程度の小規模なミーティングを数日間隔でやっていました。たくさん人がいるミーティングでは合理的に話をしがちで、資料も作らなくてはいけません。対して小規模なミーティングだとアジェンダに入れるほどでもない小さい課題や他愛もない話がメインとなりました。これの繰り返しで話かけやすい関係を作るように心がけてました。

オフショア開発ではアサインされるエンジニアのレベルに差がありすぎると言われますが、どのようにそこを埋め合わせていますか?

履歴書や話を盛るのはよくあることですし、こちらもある程度は覚悟してやっています。我々はラボ型なので、基本的には自分で育てる気概を持って新卒やスキルのないエンジニアを育成していました。

そして、どうしてもうまくいかない場合はエンジニアの変更を依頼させてもらいます。ベトナムオフショアであれば、100人以上のエンジニアを抱えている所が多いので、1ヶ月もあれば人を替えることはできると思います。

ベトナムの著しい成長と日本企業が抱えるオフショアのトラウマ

ベトナムを始めとして、アジア諸国でのオフショア開発市場の動向を教えてください!

日本ではオフショア開発の5割以上がベトナムと言われていますが、ここ10年くらいで給料が3倍ぐらい増加していて、ベトナムオフショアは安いと言っても、実態としてはブリッジSEやコミュニケーターを入れると日本の2〜3割引ほどでしょう。ベトナムオフショアのコストメリットは年々なくなりつつあり、今後10年ほどで日本と変わらなくなるかもしれません。

ベトナムの代わりとして、注目されているのはミャンマーとカンボジアですが、私もまだ情報不足なので色んな会社の話を聞いてみたいと思っています。

日本側から見たオフショア開発の動向を教えてください!

日本企業がオフショア開発をする際、壁の一つとなるのが「40代以上のマネージャーが持つ、過去に経験したオフショア開発の失敗」ではないかと思っています。

コストメリットが大きいので経営者層には刺さるのですが、品質・納期管理を担当しコスト管理はしない管理者層は、リスクを避けるためにオフショア開発を使いたがらないのではないかと思っています。これは直近の数件でもそうでした。

以前、オフショアのR&Dにも携わられていたと仰っていましたが、市場ニーズがあるのでしょうか?

ベトナムでR&Dを受けている会社は多いです。私も以前マッチングの予測モデルを作った際、人数と知見が必要だったので、海外のR&Dの視点も得ながらオフショアで一緒にやらせてもらいました。実態としては、我々が設計してベトナムで実装・実験をするといったものでした。

最後に

今後の展望について教えてください!

大きく2点あります。1点目は関西のベンチャーをもっと盛り上げていきたいということ。関西のベンチャー企業はスキル的にも売り上げ的にもマインド的にも、残念ながら、東京のベンチャー企業より遅れをとってる部分があると思っています

2点目はオフショア開発を盛り上げていきたいということ。スキルで言うと、日本人とベトナム人にそこまで違いはなく、私たちはたまたま裕福な国に住み、たまたま発注元のクライアントが近くにいるだけだと思っています。東南アジアのエンジニアにもチャンスを与えられるようにしていきたいですね。

海外に活躍の場を広げたい企業、今後オフショア開発を検討している企業へ一言お願いします!

オフショア開発で失敗する原因を相手の能力不足と一蹴しても、自分自身の成長に繋がらないと思っています。相手を変えたければ自分を変えるということで、
①ディレクション能力
②期待値のズレ
③コミュニケーション能力(相手に理解させる力)
の3つを改善していけば、オフショア開発も成功するはずです。

金額的にはオフショア開発が安い分、この辺りで自分達も汗をかく必要があると思います。結局はトレードオフです。


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