今では当たり前となったオフショア開発ですが、これから導入される方にとっては品質の面での心配もあるのではないでしょうか。2021年版オフショア開発白書においてオフショア開発を成功させる上で一番大切なことを聞いたアンケートによると、上位から「コミュニケーション」、「両社の信頼関係」、「ブリッジSEの能力」となっています。オフショア開発において自社と受託先、両者の橋渡しがいかに重要かが伺えます。
出典:
オフショア開発.com オフショア開発白書2021年版
今回は新卒で株式会社LIFULL(ライフル)に入社し、現在同社のグループ会社LIFULL Tech Vietnam Co., Ltd.のホーチミン支社で働かれている藤田俊輔さんにインタビューをしました。これまでの経験を踏まえて、海外人材をマネジメントする上でのポイントや、これから海外進出をしていく企業へのメッセージをお送りします。
藤田 俊輔 氏 | LIFULL Tech Vietnam Co., Ltd.
1989年生まれ。工学修士取得後、2014年LIFULLに新卒入社。WEBアプリケーションエンジニアとして主にLIFULL HOME’Sの新商品の開発に携わる。傍ら、ガイドライン(行動規範)改定の全社プロジェクトのリーダも兼任し、当時約600名の全社員が共感するガイドラインを作成。2017年に子会社(LIFULL Tech Vietnam)の立ち上げでベトナムに駐在。4年間で従業員60名規模に成長させる。
エンジニアとして企画段階から参画する
エンジニアになろうと思ったきっかけを教えてください
もともとゼロイチで何かを作っていくことに興味がありました。大学と大学院では研究に没頭していたためそのまま研究者の道に進むことも考えていましたが、試しに何社か選考を進める中でLIFULLに出逢いました。LIFULLのビジョンにとても共感し、そのビジョンのもとに集った仲間たちと共にプロダクトをつくりたいと思い、LIFULLのエンジニアになりました。
株式会社LIFULLに入社されてからはどんなことをされていたのでしょうか?
入社してから3年間はアプリケーションエンジニアとして、LIFULL HOME’Sのサイトの設計、実装、テストを行っていました。ビジネスサイドにも興味があったので、数字をみながら、どういうものをつくっていくべきかについて、エンジニア視点で実現性や工数などを伝えながら企画の人と一緒に、サービスの成長性等を議論しながらプロダクトをつくっていくことをしていました。
ビジネスに興味があったのはなぜですか?
“良い”プロダクトをつくりたいと思った時に、顧客のニーズや有効な技術だけでなく、収益といった持続性の考慮なしには実現できないので、そういった複雑性の中で絶妙なバランスをとっていくビジネスの側面に面白いと感じたからです。
マネジメントのポイントは「自分の経験を疑う」こと
海外人材をマネジメントし始めたのはいつ頃からでしょうか?
ベトナムに行ってからですね。それまでは日本人エンジニアの後輩のメンターを担当したくらいで、部下さえももったことがありませんでした。
ベトナムのグループ会社立ち上げに抜擢された理由は何だったのでしょうか?
入社1, 2年目のときに、エンジニア業務をやりながら傍で、会社のガイドライン(行動規範)を変えるプロジェクトのリーダーをしていました。有志で集まった15名ほどのチームで、2年間かけて案を作成ところから、当時の全社員約600名と経営陣と議論を重ねて、新しいガイドラインをつくりあげました。ビジョン・カルチャーの浸透とチームマネジメントができるエンジニアという評価を得られたのが理由ではないかと思っています。
現在のお仕事について教えてください。
社員60名のベトナムのグループ会社でオフショア開発事業をやっています。業務としては、経営戦略策定から実行まで幅広く担当しています。ベトナムのオフショア開発では下流工程のみを対応する会社が多いですが、我々は上流工程から対応し日本品質の実現を目指しています。
ベトナムを含む東南アジア諸国では企業同士の横のつながりも強いと伺いましたが、他社とのつながりはいかがでしょうか?
ベトナムの日系IT企業は仲がいいです。各社それぞれのグループ会社がクライアントになるケースが多く、互いに競合にならないことが多いため、より助け合う姿勢が強いと思います。コロナ禍においても横のつながりはとても心強いです。
海外人材をマネジメントする上で大変なことはありますか?
ベトナムではやりがいをもって働いてもらうことが難しいです。経営成長の最中なので報酬目的だけで仕事をする割合がベトナムでは多い。数年先のキャリアも特に考えることができず、その時々で一番稼げる仕事に就く傾向があります。その結果、離職率が高いのがベトナムの特徴だと考えています。
その課題に対してどのように対処していますか?
まず、会社がどんなビジョンを持って事業を行なっているのか、そしてプロダクトがどんな人々のどんな役に立っているのかといった社会的意義を説明するようにしています。また、キャリアビジョンを一緒に考えてあげ、そこに合う業務をやってもらうことを大切にしています。
一人ひとりのキャリアビジョンの形成はどのようにして行っていますか
1on1で、3〜5年後の理想像などを従業員と対話しながら一緒に考えていきます。それを実現するためには何をやる必要があるのかを言語化していきます。なかなか見えてこない場合には、好きだった業務や得意だった業務を聞いて、「そこで利用したスキルを磨き上げていった先にどんなキャリアがあるのか」といったようにイメージをふくらませていきます。
その上で、現在の業務がどのように結びついているのか、結びついていなければ新しい業務を追加する等することで、従業員がやりがいをみつけて、ワクワクしながら働けるようになりました。
1on1を通してエンジニアがビジョンを持つようになった事例はありますか?
ビジネスサイドに興味があって、PMをやりたがっていたエンジニアがいました。しかし、クライアントは日本企業が多く、自分は日本語ができないからと諦めていました。彼の中に「クライアントは日本企業のみ」という固定観念がありました。実際には日本以外のクライアントも獲得できることを丁寧に伝え、「3年後に英語でPMをやること」をキャリアビジョンの中のゴールの一つにしました。そのために英語でブリッジをやってみようという話になり、現在はシンガポールからの案件を受けるブリッジ人材として活躍しています。
海外のエンジニアをマネジメントする上で大切にしているマインドセットはありますか?
自分の常識を疑うことです。信頼関係を築くときに、自分の当たり前が相手の当たり前だと思わないよう心がけています。
オフショア開発をされる中でご自身にとって衝撃的だったエピソードはありますか
ベトナムに来て最初の頃、WEBページが表示されないのにプログラミング作業の完了報告をしてきたことがありました。日本では自分が実装したコードのセルフチェックをしないことは有り得ないことです。しかし彼らの常識では「テスト作業はテスターやQAがやること」という考えがありました。そういった背景を私が知らずに、否定してしまうと信頼関係が築けません。そんな時には、まずは背景を理解します。そして、日本の常識を押し付けるのではなく「高いバリューのエンジニアはセルフチェックを行っている」というように、彼らにとって、ひとつの知恵として伝えるようにしています。
また、ベトナム人のスピード重視の開発スタイルは大きな強みでもあるので、彼らの強みを生かし、弱みをなくしていくように、自動でコードをチェックするような仕組みでカバーすることも進めています。
開発を通して日本の課題解決につなげる
オフショア開発において、課題に感じていることはありますか?
オフショア(岸を離れる)という表現が象徴しているように、日本企業が海外エンジニアに協力してもらうことへの心理的障壁をまだまだ感じています。もっと国境を意識せずに開発 できる土壌ができると良いと思っています。
人口減少で日本のエンジニア不足が今後深刻化していく未来は確定しており、海外人材に助けを求める姿勢は必須であるけれど、やっぱり日本人同士でプロダクトをつくっているほうが楽なので、海外を使う挑戦を面倒だと思ってしまいがちです。
海外にいる立場としては、そのような心理的障壁を軽減できるように、今後も取り組みを続けていきたいと考えています。
これから海外進出を進めていく企業にメッセージをお願いします!
私が一番こだわってきたのは、常識や文化の違いに対して理解し、相手を尊重することです。言葉にすると当たり前のことですが、実際に実行し続けるのはとても難しい。私も最初は「日本のやり方が正しい」と無意識に思って言動をしてしまった失敗が過去何度もありますが、ヒトやカルチャーの違いに向き合いつづけて、関係性や仕組みをつくってきたからこれまでの会社の成長があると思っています。
ベトナム人は優秀な人が多いです。うまくいかないときにスキルに原因があることよりも、人と人との間を埋める仕組みにあることが多いと経験的に感じています。海外へ進出される際には、そういった点に着目していただけると、成功確率はあがると思いますし、成功につながる質の良い失敗ができるのではないかと思っています。
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