バーチャル化、最大の課題は「文脈の欠落」【未来電子テクノロジー株式会社 福本 真士 氏】

福本 真士 氏 | 未来電子テクノロジー株式会社

起業準備のためにセールス、プログラマー職を経験し、2010年に未来電子テクノロジー株式会社を創業。CEO。主業は、消費者行動調査分析とコンテンツ企画制作のBPO事業。新規事業で、仮想空間を活用したビジネス型箱庭ゲームの開発運営、事業のバーチャル化戦略コンサルティングの提供。また、本業と別に神戸大学大学院経営学研究科に在籍、メタバース空間を活用した最適なビジネスモデルについて研究中。

はじめに、現在のお仕事について教えてください!

当社では、消費者行動調査を得意としたwebマーケティングをメインの事業として行っており、顧客のwebコンテンツにおける企画・制作などの成長支援をしています。また、新規事業として仮想空間を活用したチーミングシミュレーションツールも開発しており、リモート環境下でのチームビルディングを支えるツールです。

この2つの事業はメンバーが完全に分離しており、新規事業は日本人1名と外国籍メンバー5名の多国籍チームで開発を進めています。

未経験エンジニアから起業し、現在は多国籍の開発チームを率いる

IT

これまでどのようなキャリアを歩まれてきたのでしょうか?

大学卒業後は芸人をやるために日銭稼ぎのつもりで始めたバイトで営業の仕事をしていました。開始早々から営業成績が良く結構稼げたので、成績が良い仲間と一緒に毎日ぷらぷら遊んでいました。すると、その仲間ごと別の会社にスカウトされて事業の立ち上げを任されるようになり、稼ぐことが楽しくなってきて次第に芸人としての活動に身が入らなくなりました。結果、中途半端になっていた芸人としての活動を辞め、同時に芸人をやめたら日銭を稼ぐ必要もなくなったので営業の仕事もやめ、次にやることを見つけるためになんとなく海外に遊びに行くようになったんです。それが2007年頃でした。営業時代の仲間と行った海外のある国で、働く場所に囚われずパソコン1台で仕事をしている人を見て衝撃を受け、次はは自分もそういった働き方をしていきたいと思い、次の目標を自分たちでwebサービスを作って、起業することに定めました。

善は急げと起業するための準備をしました。しかし、コンピュータのことが全く分からず失敗する未来しか見えなかったので、みんなで2年間修行をしようと決めました。私はITベンチャーに飛び込んで未経験からプログラマーとして2年ほど勤務、独立起業したのが今の会社になります。なので、キャリアは営業→営業企画→エンジニア→起業という流れです。

営業職からエンジニアになられたんですね。当時、そういった転職は珍しかったですか?

そうですね、当時(2008年頃)は現在ほどエンジニアという職に注目が集まっていなかったので、エンジニアに対するイメージも今ほどキラキラしたものではなかったです。でも今後はこの仕事の価値が伸びるだろうなと考えていたので、覚悟を決めて飛び込んで勉強し、結果、思惑通りの世界で生きることができています。

御社の新規事業開発チームはなぜそこまで多国籍なのでしょうか?

起業後はなんやかんや事業を成長させて余裕が出たので、新たに事業を立ち上げようと、国内の採用サービスで求人募集を行いました。その募集に対して、日本語を含む7ヶ国語が話せるカナダ人のメンバーを採用したことが多国籍メンバーが増えたきっかけです。その後は「多国籍メンバーがいるから、多国籍メンバーが集まる」というシンプルな論理で人が集まってきています。当初は彼がコミュニケーションを仲介してくれ、外国人コミュニティで人が人を呼び、現在はフランス、オーストラリア、チュニジア、韓国など多種多様な地域からのメンバーを採用しています。共通言語として、英語でコミュニケーションをとっています。

「自分の責任範囲はどこまでなのか?」明確に求められる仕事内容

AI

外国籍エンジニアのマネジメントをする上で、大切なことは何でしょうか?

「マインドセット」と「職務権限」、二つの観点でお話しします。

マインドセットについては「意見と人格を分けて議論すること」が大切です。

よくあることでは日本人同士で厳しい意見を伝えるとき、意見と人格をごちゃ混ぜにして受け取られることが多いので、言われた方は人格を否定されたと思い、凹む人が多い印象です。しかし、これが外国籍のメンバーは本音と建前の感覚が分からないので、意見は意見、人格のことは触れていないという前提で、はっきりと伝えなければ、言いたいことが全く伝わりません。オブラートに包んだ表現にせず、厳しく「ノー」を伝えることが本当に重要だと考えています。

意見と人格の問題を曖昧に伝えてしまうと、誤解されやすいのですね。

また、マインドセットに関して「宗教観と人生観」を考慮することも大切だと思います。

個人的には興味深い事象ではあったのですが、宗教観によって仕事に影響が出ることがあります。例えば、当社が扱うゲームの中で「〇〇の守護神」という表現が出てきた際、ある宗教への信仰が厚いメンバーからアウトプットに「神という表現は使えない」と言われたことがありました。そのような宗教観に依存する問題があることは事実で説明が大変になる一方、信仰が厚いからこそ絶対に嘘をつかない、裏切らないというマネジメント上でポジティブに働くことも多々ありました。

また、人生観も出身地域で全く違う場合があります。当社で働くある国の出身メンバーは日本とは違い独特なワークライフバランスについての考えをもっています。日本のようにプライベートと仕事を切り分けて考えるのではなく、そこは一緒になっているのですが、日本と違うのは反対に仕事にプライベートが強く干渉するようなイメージです。もちろん個人の問題のようにも思えるのですが、その国籍のメンバーは皆同じ考え方をしているので、国別に人生観のようなものがあるのかなと考えています。つまり、そのような人生観を前提に開発期間を考えないといけなかったりもします。

エンジニア

大切にすべきポイントとして、職務権限についても伺いたいです。

職務権限については「仕事内容の明確化」と「その仕事に就く正当性」が求められます。

海外では職務権限の内容に明確な規定が求められ、その代わりに自分の仕事に対する説明責任を強く持っていることが多いです。一方で日本では、職種ごとの仕事内容が曖昧であることが多く、その環境下に外国籍メンバーが入っても何をやれば良いか分からないと不満が出ると思います。そのような職務内容における慣習への理解が乏しかった当時、外国籍メンバーとの1 on 1でクレームが入ることが多々ありました。

仕事に就く正当性は、どういった場合に感じたのでしょうか?

一概には言えないですが、弊社の場合は外国籍メンバーが「その仕事に就く公的な証明という正当性」を求める傾向にあります。ジョブ型雇用をイメージしていただければ分かりやすいかもしれません。例えば、当社のあるデザイナーは、元々オーストラリアクリエイティブエージェンシーでトップデザイナーだったのですが、その職種はデザインの大学院で修士号を持っていることが前提であり、それを持っていない人にはそれ相応の仕事しか任せられなかったそうです。

他にも、コンピューターサイエンスの修士号を持っているエンジニアに、バックグラウンドがない最近仕事を覚えたての人をプロジェクトに入れるよう話したところ、もし経験が少ない人をチームに入れるなら教育期間も考慮に入れることになるから、開発期間も伸びるけどそれで良いのか、とあまり良い反応はされなかったです。

かくいう私自身も、経営者でありながら経営の勉強を公的な機関でしていた訳ではなかったので、メンバーから「経営のプロになってくれ」とよくツッコまれていました。そこで国立の大学院を受験して、MBAのカリキュラムを勉強し、学んだことをメンバーにシェアするようになりました。少しは認めてもらえたのか、私が今のポジションにいることへの正当性が生まれ、メンバーから経営についてアドバイスを求められるようにもなりました(笑)。

そのような背景から、職務権限の正当性について強く意識するようになりましたね。

御社では西洋のメンバーが多いと伺いましたが、それも正当性に影響しているのでしょうか?

実際に私自身、外資系企業で働いたことがないので分からないですが、ジョブ型雇用が当たり前の西洋諸国からきた彼らの自然な言動、反対にアジア系のメンバーからは同じように感じたことがなかったことから、西洋のメンバーから特に職務権限の正当性を重視している印象を私は受けました。もちろん個別具体例に依るところはあるので、皆が皆、そうとは言えないですけどね。なので、メンバーの学歴や経歴、それまでの仕事で何か成果を残したかなど、エビデンスはとても大事になってきます。当たり前といえば当たり前かもしれませんが。

一方で、日本では「やる気があれば採用!」のような、ある程度メンバー間の関係性の中で職務につく正当性が担保されることが多いですよね。どちらが良いかといえば、一長一短ではあると思いますが、まだまだジョブ型人材の市場での流動性が少ないこと、日本型は職務権限があいまいだからこそ変化には強いという観点から、今まで通りの日本型でグローバルにも対応できる職務権限作りに挑戦するのも良いかもしれません。

重要な情報が欠落してしまうフルリモート、解消ツールを開発中

オフショア

外国籍エンジニアのマネジメントで、何か苦労したことはありますでしょうか?

先ほど申し上げた職務内容に関しては苦労しましたね。会社を立ち上げた当初は曖昧な規定にしていたので、新しいプロジェクトを進めようとした時に外国籍メンバーが何を仕事にすれば良いのか分からず、プロジェクトが上手く進みませんでした。

日本人は自己組織化していくというか、何か進行中に役割の穴ができるとそこに得意な人がハマって相互補完しながら上手くまわっていくのですが、外国籍メンバーはその役割の穴に入っていけず、自分の役割を定義してくれないと動けないと言われたことがありました。

御社はフルリモートワークだと伺いましたが、その環境下だからこそ工夫していることはありますか?

前提として、当社はコロナ前からフルリモートでやっているので、様々な工夫はしています。

リモートになると、あらゆる情報がバーチャル化していき、コミュニケーションもチャットかビデオ通話になります。face to faceで得られていた情報が欠落し、あらゆる情報から文脈が無くなっていきます。言い換えれば、社内には文脈のつながっている仕事などの、目的のあるコミュニケーションしか残らなくなったんですよ。

そうなると共同体組織から機能体組織に近くなり、ただ生きるための仕事をするためだけに集まっている組織になってきたと感じ始めたことが、自分のポリシーに反していて行動の必要性を感じました。そこで私たちは目的のないコミュニケーションを増やそうと画策し、雑談ルームがあれば補完できるのではないかと仮説を立て試してみました。しかし、わかったことは、雑談が共同体に必要なコミュニケーションを補完していたわけではないということ。雑談しましょうという目的で集まって雑談をしても、何ら目的のあるコミュニケーションと変わらないので、その情報に価値がなかったということです。

そうではなく、会社の一員として会社の追い求める目的を達成しようとする過程で、自然と出てきた関係のない話に重要な情報が詰まっているという考えに至りました。つまり、集団で追いかけている何かひとつの目的があって、その途中で寄り道的に生まれる自然なコミュニケーションに意味があるんだということです。そのような文脈の欠落を補完するために、当社ではメタバースのような仮想空間を作って、社内で実験も兼ねて使っているんです。

やっていることはシンプルで、箱庭ゲームのように村を育てることを目的としたゲームを、会社メンバーと一緒にプレイします。ゲームゴールを追いかけたくなる没入感と、その過程で自然発生するリアル世界をテーマにしたコミュニケーション。文脈がなくなり、必要な情報を必要なだけ共有するだけのワークグループになってしまっていた状態を、ビジョンをもとにコミュニティ化させ、さらに目標を適切に設定することでチームビルディングを実現することができます。

チームワーク
仮想空間を活用したチーミングシミュレーションゲーム「Ohayo」

伝えなくても良いかなと思う情報が案外大事だったりしますよね。

これらツールを必要とする背景には、「これは伝えなくていいかな」という意思決定を、本来その意思決定をする権限がない人が、気軽にしてしまっていることが問題として挙げられます。空間があった時代には侘び寂びも含めて、全ての情報が伝わって共有されていた状態であったのに、各々が恣意的に意思決定することで、必要な情報を共有しなくなり、大事な情報が失われることが最大の課題といえます。

とは言っても、全員がずっとzoomを繋いで同期しながら働くのは非現実的なので、非同期で自然と情報が回流する仕組みへのアップデートが必要なのではないかと考えています。

最後に

今後の展望をお聞かせください!

メタバースという言葉などバーチャル化がバズワードになっている一方で、今を生きている人にとって本当に必要な部分はどこなのか、ということに問題意識を持っています。現在修士論文でも、メタバースがビジネスに及ぼす有用性について研究しており、できることなら博士課程に進み研究を続けたいと考えています。

またさきほど紹介した仮想空間でのチーミングシミュレーションゲームを使い、せっかく多国籍なチームと一緒に働いているので、日本だけに留まらず各国での需要検証などもやっていく計画も立てています。

今後オフショア開発を検討している企業や、海外で活躍の幅を広げたいと考えるエンジニアにメッセージをお願いします!

日本人、外国人と区別してメンバーを採用するのは時代にそぐわないと思っています。組織は戦略に従って機能させるものなので、グローバルにビジネスを展開していきたいなら、組織自体も構造そのものからグローバルに設計し直さないといけないと思います。

文句もたくさん出ると思いますが変化を恐れずに、会社の中身を変えていきましょう。


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