海外エンジニアとの開発はいかに意図を汲み取り、成果物に落とし込むか【ALJ Myanmar Company Limited 濵口健次氏】

これまで、オフショア開発拠点としてベトナムやフィリピンなどの成熟したオフショア開発市場でご活躍されているエンジニアの方々からお話を伺ってきました。近年はそれらの地域で平均賃金や技術力が飛躍的に向上していることもあり、ベトナムやフィリピンの次を見据えた地域として同じ東南アジアのミャンマーが注目されています。

オフショア開発先主要国の国別人月単価(オフショア開発白書2021)を比較してみると、東南アジア諸国は成長が著しいですが、その中でもミャンマーは比較的安価であり、コスト削減のためのオフショア開発先としては今後も注目され続けると予測できます。

オフショア
関連資料:
オフショア開発先国別の人月単価(出典:オフショア開発.com オフショア開発白書2021年版

今回は日本のIT企業に技術者として入社された後、同社でロサンゼルスのブリッジSEやミャンマー法人の責任者などの国際的なキャリアを経て、現在はミャンマー法人のCEOを務めている濵口さんから、オフショア開発先としてのミャンマーの現状と課題、海外のエンジニアをマネジメントする方法などをお送りします。

濵口 健次氏|ALJ Myanmar Company Limited
福岡出身。2012年、ALJにキャリア採用で技術者として入社。能力が認められ経営戦略室社長補佐に就任。2014年留学情報ポータルサイト構築の為、ロサンゼルスにブリッジSEとして赴任。翌年帰国し、複数の事業部を掛け持つグループリーダーに就任。社員のキャリアパス形成に関わる。2016年、自らミャンマー出向を志願し、ALJ Myanmar co.,ltd. の統括責任者就任。翌年にはバイスマネージャーとして経営戦略含む総合ディレクションを歴任し、2020年7月、CEOに就任。

ITを専門的に学び、エンジニアの道へ

エンジニアになろうと思ったきっかけを教えてください!

高校生の頃、ちょうど楽天やライブドアが台頭してきた時期で、ホリエモンさんや三木谷さんの著作をよく読んでいました。それが、最初にITに興味をもったきっかけだったと思います。

彼らの本を読んで、私も早く社会人になった方がいいのかもと考えたんですね。そこで大学に進学するよりも専門学校でITを学ぶ道を選びました。

専門学校を卒業した後、今とは違う日系大手IT企業でエンジニアとして就職しました。3年ほど在籍をしたのですが、自分が関わるプロジェクト以外の新しいチャレンジがしづらいと感じてまして、もっと他のこともやってみたいという思いから、転職を決意しました。

IT以外の世界も見てみたくて、2年くらいサービス業などをやってみたのですが、「60歳超えてもやっていく仕事なら、やっぱり自分にはITが向いている」と思えたんです。そこからご縁あって、今の会社に入社しました。

IT

日本からロサンゼルス、そしてミャンマーへ

今の会社では経営戦略室の社長補佐をされていたんですよね?

入社して約半年は普通のエンジニアとして経験を積み、その後、経営戦略室配属になりました。経営戦略室の中で私が主に手掛けていたのは、社内プロジェクトのより円滑な進め方を考えることでした。色々なプロジェクトに関わりながら、経理のことなど必要な知識も学んでいきましたね。

ロサンゼルスでブリッジSEになられたのは、その後のお話でしょうか?

実は弊社の社長がアメリカに半年ほど行っていた時期があって、在米中に親しくなった留学関係の日本人の方からITサポートの依頼を受けたんです。

日本に戻ってきた社長がいきなり「ちょっとアメリカ行ってみない?」とおっしゃったので私も驚きました。でも「面白いかも」と思いまして、折角のチャンスですし話をお受けしました。
ロサンゼルスでは留学生をサポートするオフィスで働くことになったので、日本人がほとんどの環境でした。なので業務上必須となる英語のやりとりは少なめだったのかもしれません。ただ、得意とは言えない英語で話しかけてもネイティブには聞き取ってもらえないことも多く、英語のコミュニケーションには苦労しました。

ロサンゼルスから帰国された後、今度はミャンマーへと出向されているんですよね。

ロサンゼルスから帰国した後、社内の管理者が人手不足だったので、しばらくはグループリーダーをやっていました。その業務の一環として、ミャンマーのグループ会社との窓口を私が担当することになったんです。

ミャンマーのグループ会社は、私がロサンゼルスに行っている間に立ち上がった法人なんです。日本の仕事をミャンマーに依頼しながら仕事を進めていくわけですが、様々なトラブルが起こりました。
お願いした仕事が戻ってくるのに想定以上の時間がかかったり、戻ってきた仕事をチェックしたら出来上がりが不十分だったり、指摘しながら改善を進めていこうにも日本では原因がよく分からなかったんです。
「直接行って確かめるしかない」と思いました。そこで社長に相談をしてみたところ、ミャンマー出向の許可を頂いたわけです。海外が好きというわけではないんですが、社長から許可も頂きましたし、なにより必要性を感じていたのでミャンマーへの出向を決めました。

ビジネス

ミャンマーで現地の方々とお仕事を進めていくなかで、どのような苦労がありましたか?

ミャンマーの会社は2014年に立ち上がっていて、私が出向したのは2016年。そこから3年ほど現地に滞在しました。当時の現地スタッフは10名ほどで、日本人は前任者だけという状態でした。

いきなり前任者から業務を引き継ぐといっても、周囲からすれば「あいつは誰だ?」状態ですよね。なので、まずはコミュニケーションをとるところから始めました。
当時のミャンマーの職場はまるで学校みたいな雰囲気で、規範もゆるやかでした。楽しみながら成果が出るならいいんですが、仕事の成果物も上手く出来ていなかった。全体のマネジメントを大きく変えていく必要がありました。
それこそ「時間を守ろう」といった点からスタートです。管理者である自分が模範を示せるよう、時間に遅れないように徹底しました。出社時間に遅れる人がいるかと思えば、逆に早く来すぎる人もいたので、自分の出社時間も合わせて調整していましたね。
マネジメントが厳しくなったこともあり、当時のスタッフは2人を残して他は入れ替わりました。

ミャンマーでの人材マネジメントで大切にされていた点や工夫について教えて下さい。

心がけていたことの一つは、私からミャンマー人のスタッフに直接ではなく、現地のリーダーやマネージャーからの指示体制にすることです。同じミャンマー人からの注意や指摘だと、スタッフたちも受け入れやすくなります。
トップダウンになりすぎないよう私の立場からはミャンマー人のリーダーやマネージャーとの意思疎通に注力していました。私がおかしいと感じたことがあっても、文化の違いによるものかそうでないのかも、マネージャー層に確かめながら指導していくように意識していました。

ミャンマー

海外オフショア開発の課題と今後の可能性

オフショア開発のお仕事をしていて、現在感じていらっしゃる課題はどのようなものですか?

私達の仕事は、お客様といかに認識を合わせて作っていくかが非常に重要なポイントです。それこそ予算も時間も潤沢なら、限りなく完璧に近いものが作れるでしょう。しかし、実際の開発では様々な制約の中で「安くて早くていいもの」を目指すことがほとんどです。
「オフショアって品質大丈夫?」とよくご質問を頂くのですが、最初から完璧な仕事を仕上げるのは、国内の開発でもなかなか出来ません。国内外の違いではなく、大切なことはいかに意図を汲み取り、成果物に落とし込むか。オフショア開発は残念ながら下に見られやすい傾向がありますが、高く見られすぎていない分チャレンジの価値があると私は思っています。

日本から発注する側の捉え方や考え方をアップデートをしつつ、海外の技術やコミットを高めていければいいですね。

海外側の技術力が足りない面も確かにありますし、言語や文化の違いなどのハードルを超えていく必要はありますが、たとえばPHPなどに特化して技術を高めていけば補える部分もたくさんあります。様々な改善を重ねた結果、現在では海外拠点と日本現地のお客様との間で直接でのやりとりや納品も行えるようになりました。
これからさらに人数を増やしたり、対応できる事業範囲を増やしたりしていきたいと考えていたところで新型コロナが世界的に流行したため、ミャンマーの会社はいったん規模の拡大を見送ることになりました。
そんな中で起こったのが2021年2月のミャンマーのクーデターです。カントリーリスクって本当にあるんだな、と痛感しました。日本にいる私達以上に、現地のスタッフたちは大変だろうと思います。でも、そんな情勢下でも彼らは働き続けたいという意志をもって、仕事をしてくれています。ミャンマーでは失業者も増えているようなので、できるだけ仕事の発注は止めずに彼らの仕事を継続できるようにしたいと考えています。

今後、ミャンマー以外の国にもオフショア開発の拠点を展開していくご予定はあるのでしょうか?

インドネシアやタイ、ベトナムといった東南アジア近辺の国々とも協力していこうという話は出ていましたが、新型コロナの影響でいったん見合わせになりました。ただ、今後のミャンマーの情勢次第ではありますが、例えばベトナムなど近隣の国に移住して落ち着いて働きたいというスタッフも現れるかもしれません。そういった希望も考えながら、検討を進めていきたいと考えています。

いずれにせよ、日本では技術者が不足していることから、別の国のリソース活用への要望がこれからより増えていくでしょう。ニーズが高まるにつれ、カントリーリスクの影響を日本でカバーしにくくなります。ミャンマー以外の国でも協力体制を作っていければ、心強いですね。

オフショア

最後に

海外エンジニアの活用を検討していたり海外オフショア開発を検討したりしている企業様へ一言メッセージをお願いします。

今後、日本の少子化が進む中で、他国の力を借りた開発の重要性が増していきます。互いに気持ちよく進めていける関係性がベストなのは、国内でも海外でも同じです。いきなり完璧な仕事を求めずに、まずは海外のエンジニアとともに仕事をしながら感覚をつかんで頂き、そこから一緒に改善に取り組んでいければと思います。

————————————————————————————————————————
ACTIONでは教育型オフショア開発プログラム(フルリモート)を提供しています。
海外で活躍しているCTOがメンターシップしながらラボ型のオフショア開発をします。
自社のエンジニアを海外でも活躍できるように育てます。
————————————————————————————————————————

海外CTOコミュニティ・教育型オフショア開発に興味がある方 こちら

関連記事

  1. 相手を変えたければ、まずは自分を変える〜オフショア開発の失敗から学んだこと〜【株式会社Calme 青木 崇 氏】

  2. (前編)日本でソフトウェア開発をするアメリカのテクノロジー・カンパニー。異色なオフショア開発を通して感じる海外から見た日本とは【Launchable, Inc 川口 耕介 氏】

  3. エンジニア不足の日本と成長著しいインドネシアの架け橋に【株式会社Jobwher 森川悠希氏】

  4. オフショア開発のポイント〜対話を通してエンジニア一人ひとりの心を動かすこと〜【SCSK株式会社 山田丈志氏】

  5. マネジメントでは部下の人生プランまで一緒に考える【Prime Style Co., Ltd 滝田 秀樹 氏】

  6. 海外進出のカギは人と人の間をどう工夫できるか【株式会社LIFULL 藤田 俊輔氏】