皆さん、電子国家の国と言いますとどの国が思いつきますか?
出典:第 15 回早稲田大学世界デジタル政府総合ランキング
”電子国家”は日本ではまだ馴染みのない言葉かもしれませんが、アメリカ、デンマーク、シンガポール、イギリスやエストニアなどの国があげられます。その中でもダントツに人口が少ない、なんと青森県とほぼ同じわずか約130万人によって成り立つ共和国、エストニア。ここでは、1997年から国家主導で急激なデジタル改革を果たし今や世界の模範となるほど、人口からは想像できないほどデジタル化の最前線を行く国です。
出典:National Cyber Security Index by NCSI
インターネットを国全体で使用するためには、国が国民の個人情報を守り、国民はそれを利用してスタートアップ企業が世界へサービスを発信していくという両者が支え合う関係性が必要となってきます。それを実現するためにセキュリティというものが最重視される中で、エストニアはサイバーセキュリティー指数が世界で一位に輝くほど、国家がサイバー脅威を防止し、サイバー犯罪を管理するための準備が整っていることが示されています。
今回はアメリカやベトナムでのオフショア開発と、外資企業や超有名大企業でソフトウェア開発やローンチ等に携わられたのち、エストニアでエンジニアのマネジメントを経験をし、現在独立してデジタルパイロットで代表取締役をされている岩澤さんに、外資系企業での経験や、それぞれの国での様々なエピソード、コミュニケーションの取り方とアドバイス、そして今後の展望などを伺いました!
岩澤 敦 氏 | 株式会社デジタルパイロット
1996年にAOL Japan の米国支社に入社し、エンジニアしてのキャリアを日本とアメリカ両方で積む。その後もドコモやSoftbankとの協働でDisney Mobileのローンチや、進研ゼミ+の開発等のソフトウェア開発を経験。ベトナムでのオフショア開発にも関わり、直前エストニアでエンジニアのマネジメントを行う。現在は独立して株式会社デジタルパイロットを立ち上げ、各種コンサルティングを提供中。
英語は不慣れだが、外資系企業就職でアメリカに渡航!
エンジニアになろうと思ったきっかけを教えてください!
もともとコンピュータに興味がありました。当時はファミリーパソコンに憧れがあったんですが手が出なくて。大学の機械工学専攻していた時にたまたまの機械制御系のことをやって、またそこから本格的にコンピューターに触るようになりました。そこでやはり面白いと思い、就職の際に米国企業の日本語化チームでエンジニアとして入ったことがきっかけです。
外資系の企業に入ったきっかけはありますか?
日本でも就職活動はしていたのですが、なんとなくやはりコンピューターはアメリカだと思っていたんです。(笑) バブルで大量採用していたことでチャンスもあったし伸び盛りの会社でもあったので入りました。また何よりも、その会社の教育部が無料でコースを学生に受けさせてくれていて、そこに参加したことで会社の仕組みとかを学べたので、それですごく興味を持ち、外資系の企業に入りました。
その外資系企業でのエピソードを教えてください!
その会社はエンジニアに優しい会社でした。新卒で入った日本人は英語が話せないのに、エンジニア同士だからプログラミングで会話できるから行けって飛ばされたんです。でも最終的に生活しながら勉強していると自然とアメリカの状況とかも分かりました。
また、まさに日本でもインターネットが始まった頃、私はアメリカにいて、そこではインターネットプロバイダーというのが当たり前にあり、それをすごいことが起きてるなあって横目で見ていたので、それが日本でできるならやってみようと思いました。そこからインターネット業界を渡り歩いたという感じですね。
アメリカ側と日本側でバトル!?お互い理解し難い感覚の違い
アメリカと日本の文化の違いで衝撃だったことはありますか?
僕は当時アメリカのソフトウェアを日本語版にする仕事をしていて、そこでメール用ソフトのローンチを担当していました。一般のソフトだとメール一覧があり、その中には当然、送信者の名前、タイトルや日付等が真っ直ぐ並びますよね。でもアメリカでは最終版でそれがガタガタだったんですよ。その時からローンチはすでに2週間遅れていて、でもアメリカ側からするとこんなことを直すためにローンチ日程を遅らせるのかって。でも日本側はこんなこともできないなんて信用できないという感じだったんです。こういうところの感覚の違いはすごく感じましたね。
マネジメントで感覚の違いがあった中で、日本側の意見で調整されていたんですか?それともアメリカ側ですか?
今もそうなんですが、その当時も作る人たちは海外にいたんです。ですから結局作る人を説得しないと動かない。なので結果的に日本が調節するどうこうの話ではなく、海外の方とバトルしていました。(笑)
そういう国による感覚の違いというのは今でも変わりませんか?
Disney Mobileのソフトウェア開発をベトナムオフショアで開発していた時に、ブリッジエンジニアを通して翻訳された仕様書を読みながら開発していたのですが、先ほどのこのぐらいでいいじゃんという許容範囲の違いがここでも出てきたんです。仕様書の大枠しか翻訳されていなくて。でもキャリア系の仕様書の最も大事なところって米印の部分やオプションなどの例外の部分で、そういう部分が一番プログラミングで引っかかるんですね。なので翻訳がされていなかったことでトラブったことはすごくよくありました。そこの細かさはかなり違いますね。これに関しては今まで仕事をした多くの国で経験しました。
Disneyに入社されたきっかけは何でしたか?
ただタイミングがよかったんですよね。当時DisneyさんがDisney Mobileをプロジェクトとして立ち上げるという時に、たまたまテクノロジーディレクターのトップの方がマネージングのポジションを探していたんです。そこでご縁があり入らせていただきました。
岩澤さんの英語習得方法
英語はどうやって勉強されましたか?
僕は大学の頃は全然英語できませんでした。会社に入ってから仕事の中でやらざるを得なかったため、必死に英語力をつけていったという感じですね。真の意味でのOJTでしょうか。
スキルアップした時はAOLのローンチの時期でした。当時はアメリカメンバーとのディスカッションを電話会議で週何回もしていて非常に難しかったんですが、片言でありながらも話したり、メールを書いたりを繰り返しているうちに習熟していきました。
でも七割ぐらい気持ちの問題ですね。根性さえあればなんとかなると思っていて、アメリカの方は優しいのでこちらが必死に伝えようとすれば聞いてくれます。
ベトナムの方とも英語で会話されているんですか?
そうですね。エンジニアで英語を話せない人も多かったので、なるべく分かりやすくて簡単な英語を使うようにするようにはしていました。ブリッジエンジニアの人たちは日本語を話せる人もいたんですが、やっぱり英語のほうが聞ける人が多かったので英語を使うようにしていました。
海外メンバーとのコミュニケーション術【傾聴はものすごく重要!】
海外の方と仕事をするときに気をつけていることは何ですか?
絶対に現地に行って会った方がいいですね。後々楽になります。コミュニケーションが取りやすくなったり、発言をするときにも躊躇しなくなるので100%日本人が気楽になります。ですのでプロジェクトを作るときはなるべく顔合わせをする機会を作っていました。
実際に現地に行って具体的にどんなことをされるんですか?
一緒にご飯を食べたりとかして、もうすでに説明されていても、これからどういうことをやっていくのか説明します。本気度とかも伝わるでしょうし。
海外の方とのコミュニケーションの中で大切なことを教えてください!
一番大事なのがオフの時間なんです。仕事をしていない時にカフェテリアでコーヒーを取るときとか、あの雰囲気の中のコミュニケーションがすごく大事で、それで人となりが分かって近さが変わるので、仕事のやり方も変わるんですよね。英語で苦労していた頃は本当は嫌だったんですが、誘ってくれることもあって一緒にランチをしたりしていました。その時はバスケやテレビ番組の話とかされて全然分からなかったりとかしていたんですが、今思うとその場にいることが大切だったのではないかなと思いますね。
国によってとる対応の違いはありますか?
アメリカの話でいうと、若い頃長期出張で面倒を見てくれていたのはやはりアジア系アメリカ人でした。アジア系は本当にマイノリティでして、西海岸の州と比べて、ボストンやNYは特に差別が大きかったんです。仕事ではあまりないんですけどね。
また、アジア人は日本が素晴らしいと思っている方が多いので、そこの立ち位置によるコミュニケーションの違いはありましたね。
エストニアに関してはちょっと違うんですよね。すごい特殊なのがロシアに制圧されていた歴史を持っていることもあり、そういう意味では謙虚、真面目で穏やかです。だから仕事上でのトラブルはかなり少ないです。でもやはり日本人とは違うので、自分の考えていることを日本人よりも突っ込んで話をしたり、会社の方がなっていないとどうしてこうなんだと理路整然に話が来たりはしましたね。
アメリカやヨーロッパは多民族国家であるのに比べ、アジアはアジア人が多いですよね。そこの大数民族っていうところで感覚の違いは大きいです。
海外のエンジニアとのコミュニケーションのとり方を教えてください!
海外に限らず、かなり話を聞くようにしています。傾聴はものすごく重要です。聞いてあげることによって向こうが近づいてきたりもしますしね。エストニアにアサインされた時も早々に全員面談しました。これに関しては国籍あまり関係ないかなって思いますけどね。
エストニア現地での貴重なエピソードと日本との違い!
エストニアに携わったきっかけは何ですか?
前職の会社が日本のスタートアップ企業だったんですけど、エストニアのデジタル国家を担っていたインフラを支える技術とかを日本に持っていこうという会社だったんです。だからエストニアにも支社があって、日本では営業及び製品販売・導入をし、エストニアはその製品を作る仕組みで、僕は開発チームだったのでエストニアの方のマネジメントを担当するという感じでした。
エストニアで衝撃だったことはありますか?
会話している際に素直に態度で現れるのが衝撃的だったことがありました。例えば、何か伝えようとした時に向こうが理解してくれなかった時に、呆れるような態度を取るんですね。そうではなく、根気強く伝え続けたり、向こうがキャッチアップする時間をとることでリスペクトの気持ちが伝わると思いますね。
外国人エンジニアのマネジメントで印象に残っているエピソードはありますか?
エストニアでは当たり前のようにシステムの運用はコーディングでやっているので、手でのシステム運用は一切なく、全てプログラミングで行われるという環境が整っているんです。日本ではスタートアップでそういう環境を作っている会社は増えていますが、今私がITコンサルをしている大企業でもまだ昔ながらの手運用なので、ものすごいギャップを感じますね。
日本はエストニアと比べて非効率という印象を受けますか?
ものすごく違いますね。日本はデジタル庁に期待していますがやはり色々な面で壁は大きそうですね。
企業や国としての観点からみて、日本とエストニアで明らかに違うなという点はありますか?
まず国の規模と背景が違うので比較は難しいですね。エストニアは紛争で一度壊されている歴史を目の当たりにしているのでスクラップアンドビルドが多かったんです。1990年代後半、当時の首相がコストダウンのためにデジタル国家を構築し始めたが故に、現在世界屈指のデジタル国家として成り立っています。エストニアでは全てインターネット上でやりとりしているんですが、日本は扱っているデータのセキュリティのことを考えると同じようなシステムを運用するのは難しいですね。
セキュアな環境を守ることと、今時の仕組みで効率的にデジタル国家を築いていく、その狭間をどう埋めていくかが大事だと思います。日本はデジタル国家でやっていくのは苦労が多いし時間がかかるでしょうね。政府もそうなんですが、会社の経営陣がデジタルリテラシーを上げないとかなり厳しいですよね。
海外も日本もあまり関係ない!?大切なのは「いかに自分と違う人を許容し、耳を傾けられるか」
オフショアの課題はなんでしょうか?
オフショアだけに限らず、日本の丸投げ文化を100%やめないと解決しないんですよね。なのでITのプロジェクトを丸投げするような会社がオフショアすると100%失敗します。会社内でプロダクトマネジメントやアーキテクトなども含めて、設計し管理していくという体制を作らないとうまく回らないとは思いますね。
日本人で海外エンジニアのマネジメントができる人材が不足している現状がある中、どういうことが必要になってくると思いますか?
第一にプロダクトオーナーやプロジェクトマネージャーの技量がまずないといけないです。また海外に限らず、マネジメントをするときは傾聴をするという行動を身につけること。そしてその上で海外の文化を咀嚼し許容できることだと思います。
私は海外も日本もあまり関係ないと思っていて、いかに自分と違う人を許容し、耳を傾けられるか。それを許容した上でどうやったらアクションを起こせるか、残せるかを考えることが重要であって、その対象がたまたま海外の方なんじゃないかと思います。加えてチームとしての方向性を考える、リーダー本来の資質を育てるのが大切と感じます。
最後に
今後の展望について教えてください!
まだ考え中で行動に移せていないんですが、IT人材が枯渇しすぎているからそこをなんとかしたいというところはあります。自分自身、特殊な経歴を持っているので、そういう経験を踏まえた上で人材育成や会社の仕組み作りができればなと思っています。まだ具体的にどうやってやるかまでは考えられていないんですが、当初から考えているのはリスキリング(職業能力の再開発・再教育)をやることで、IT人材を増やせないかなとは考えています。
海外での活躍の場を広げていきたい企業へメッセージをお願いします!
起業する方であれば、海外メインで考えたほうがいいですね。それを目指す上で最終的なプランとしては日本でもいいですが、最初からグローバルな観点で起業を考える方がいいです。日本だけ考えていた企業がいきなりグローバル化は絶対にうまくいかないですからね。
海外で仕事をしたい人はとにかくその環境にいってみてください。それから自分の内面をさらけ出してみるのがいいですね。その勇気が大事だと思います。
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