(前編)日本でソフトウェア開発をするアメリカのテクノロジー・カンパニー。異色なオフショア開発を通して感じる海外から見た日本とは【Launchable, Inc 川口 耕介 氏】

170万ユーザー以上の導入実績があり、CIツール市場で世界で最も普及したソフトウェア、Jenkins。皆さんはご利用になっていますか?

今回はなんとそのJenkinsを開発された川口耕介さんにインタビューさせていただきました!

Jenkins

出典:Official Jenkins

Jenkinsとは:
Jenkinsはソフトウェア開発における一連の作業を自動化できるオープンソースのCIツールで米CloudBees(クラウドビーズ)社が支援している。Javaで書かれたJenkinsは汎用性が高く、ソフトウェアのリリーススピードの向上や開発プロセスの自動化、開発コストの削減を目的とする世界中のユーザーに利用されている。近年ではJenkinsの設定に継続的デリバリが適用されるなど進化しつづけている。

出典:技術顧問に米Jenkins開発者・川口耕介氏が就任|株式会社SHIFT

そして、そんなIT技術者にはもってこいのソフトウェア、Jenkinsの父である川口耕介さんが近年アメリカでスタートアップ・Launchableを設立し、日本でも活動を始められました。

アメリカ

出典:The Top 100 Companies of the World: The U.S. vs Everyone Else

時価総額世界ランキングトップに位置する企業Apple、Microsoft、AmazonやFacebookなどの超有名企業を有し、上位100位にランクインしている16か国のうち、時価総額の65%をも占める世界最大のIT企業の本拠地であるアメリカは、常にテクノロジーの頂点ともいえる国です。 シリコンバレーはソフトウェアエンジニアと企業を生み出し続け、世界中から技術者たちを集めています。

ACTIONでは今まで東南アジアでオフショアされている方々を数々インタビューさせていただいていましたが、今回に限っては逆です。川口さんはアメリカでの立ち上げを経験されたのち、現在日本でオフショアという形になります。そんなACTIONとしても初めての興味深い経歴をお持ちの川口さんに、今回海外と日本の文化の違いによって苦労されたことや、そんな中でのマネジメントでの工夫などをお伺いしました!

川口 耕介 氏 | Launchable, Inc
大学在学中に有限会社Swiftを設立。01年Sun Microsystems入社。02年コーネル大学大学院で修士号を取得し、翌年Sun Microsystemsに復帰。在職中にJenkinsの元となるCIツール「Hudson」を開発。その後米CloudBeesに在籍し、CTOとしてJenkinsや関連サービス・製品の発展・普及を推進、現在も同社でアドバイザーとして活動を続ける。近年Launchable Incを立ち上げ、世界中のエンジニアと協働。日本での業務委託も開始し、現在に至る。

中学生でプログラミングを始め、大学生で会社を設立

プログラミング

エンジニアになろうと思ったきっかけを教えてください!

中学生ぐらいから母親の持っていたラップトップを使ってプログラミングをやっていて、それが楽しくて高校生の時には将来プログラミングを仕事にすると面白そうだなと思っていたのでそういう意味では自然にこれを大学でやろうとなりましたね。最終的に高校生でソフトウェア開発販売をやり始めて、部屋がいらないしこれは商売になるんじゃないかと思い、大学の時に会社を作り、そこでいろんな手応えを得たのがきっかけですね。

大学院はアメリカですか?

そうですね。大学は東京に行って、その後は大学院には行かずにしばらく会社にフォーカスしていました。その後渡米してしばらくアメリカの会社で働いてから大学院に行き修士を取ったという感じです。

大学院に行ったきっかけはなんですか?

今となってはもはや思い出せないんですが、結果としての学歴にはあんまり価値はなかったかもと思いますが、大学院自体はとても楽しかったです。でも仕事と大学院掛け持ちしてたのもったいなかったかもしれないですね。大学院だけにしておいたら研究の面白さを満喫できたかもとは今思います。

Sun Microsystemsに入社した理由を教えてください!

Sunに入社したのは、当時僕が作っていたソフトウェアをSunが見つけてうちで仕事やらない?と声をかけてくださったのがきっかけです。アメリカでの仕事は非常に面白そうだったし給料がとても良かったんです。当時日本でソフトウェア受託開発をやっていたんですが、これはできるなという手応えを感じてしまったのでもう少しいろんなチャレンジをしてみたいと思い入社しました。

ご自身の会社はいつ設立されたんですか?

原型になったのは高校のときに作ったソフトウェアです。大学3年生に法人化しました。

いかに機械の力で人間をパワーアップできるか

エンジニア

「ソフトウェア開発の生産性についての取り組み」に着目されたきっかけはなんですか?

Sunでは他のソフトウェア開発者が使うプラットフォームを作っていたんです。でもちょうどその頃Sunはビジネスとしてあまりうまくいっていなくて、技術者がどんどん辞めちゃっていて。優秀な人からやめていってそうじゃない人が残っていくみたいな状況下で機械の力で人間をパワーアップできないかと思ったんですね。エイリアンっていう映画のように外骨格みたいなものを使うと人間でもエイリアンと戦えるように、そういうことをソフトウェア技術者にもやりたいなと思っています。

CloudBeesに入ってからJenkinsが立ち上がったんでしょうか?

いえ、逆なんですよね。僕は2004年ぐらいから趣味でみんなが無料で使えるソフトウェアを作っていたんですが、そのコミュニティが非常に大きくなって世界中でも使われるようになったので、これを事業化すればもっと色々できるんじゃないかということでCloudBeesの創業に参加したんです。そしてそれを2010年ぐらいから事業化しました。

CloudBeesとの出会いはなんでしたか?

創業者が僕のことを知っていたようで、一緒にやらないかというメッセージが来たんです。返信したんですけど、彼が返信を見損なって(笑)しばらく何も起こらなかったんですけど、サンフランシスコのカンファレンスで彼と再会して一緒にやろうとなりました。

Harpreet Singhさんと会社を立ち上げたきっかけを教えてください!

Harpreet と僕は歴史が長くて、Sunの時から同僚でCloudBeesの時もオフィスの席が隣で一緒に仕事していたんです。僕も、会社も大きくなったし他の人にこのプロジェクトを任してもいいかなという自信がついて、彼とは非常に気も合うし色んなこともできるので次何やろうかと話して意気投合したのがきっかけです。

会社のイラストの宇宙ぽいデザインにはどういう意味合いがありますか?

会社の名前が会社の事業内容とかけ離れていては損なので我々のミッションに近いものを選ぶようにしました。あとは展開性というか、ある種の広い問題意識をカバーしてその中で何をどういうふうにやっていくのか、ある程度の自由度が必要なのでプロダクトやリリースをローンチするのを助けるという意味でLaunchableという名前にしました。

そしてlaunchといったらロケットだろという事から、デザインには宇宙やロケットを多用しています。やること成すこと全部ロケットのテーマと結びつけることで会社の一体感が出てくると。そういう意味でやはりうちの会社らしさを出すことを大事だと思っています。

マネジメントをする中で「感覚の違い」から得た学び

プロジェクトマネジメント

エンジニアのマネジメントの中で大切にしていることや気をつけていることを教えてください!

出来るだけ話を聞いてあげないとなと思うんですね。ソフトウェアの会社では色んな場所から色んな人が来るので、自分が持っていない視点を持った人がソフトウェアを作って、ユーザーに受け入れられていくのを何度も目にしました。それが耳を傾ける態度に繋がったと思います。一見おや?と思っても、謙虚に耳を傾けるようにしています。

あとは、オープンすぎてもアジェンダを決めすぎてもいけないということと、この人を育てるにはどういうことを言ってあげればいいかを考えて発言するようにしています。

海外と日本でのマネジメントの違いはありますか?

僕にとっては今回日本人のエンジニアと仕事をするのが初めてで、そういう意味では非常に新鮮だったんですが、国によって色んな違いがあるとは確かに思います。例えば言葉のインフレというか(部下と仕事の話をするときに)アメリカ人は褒める方向に倒してくるんですが、ロシアの人はどちらかというと淡々と問題点を話すんですね。これは怒ってるからとかではなく、ただ単にそれに慣れているからなんです。

例えば当時の上司とone-on-oneをした時に、最近どう?と聞かれてI’m OKと答えたら、問題があると思われたみたいで相談モードになってしまいました(笑)僕としては順調だという意味で言ったんですけどね。だからそういう同じ言葉を使っていても受け取る人によってニュアンスが全然違うなと思いました。

逆にマネジメントする立場じゃなかった時にマネジメントする立場の人間にこうあって欲しい人物像となんですか?

基本的に共同作業は色んな人にとって苦痛なんですよね。そこで上下関係等がすでにあるのなら良いんですが、特にゆるいボランティアのような組織の繋がりであれば誰かが誰かに命令してやってもらうことが難しいので、できるだけみんながやりたいことをし、緩やかに全体としてある特定の方向に向かう。そういう感じの組織を構造せざるを得ないんです。それを可能にするために技術的なアーキテクチャを自分たちでうまく合うように作ることが必要だと思います。コンウェイの法則のように組織の形と作るソフトウェアの形は似てくる、まさにそういう感じです。それが自分の中で一つの学びというか、こういう風にソフトウェアを設計するとみんなが自分のやりたいことができるんだなと。

部下をマネジメントをする際の失敗談を伺いたいです!

当時重要なソフトウェアの設計の一部を部下に任せた時に、『それじゃなくてこういう風にしたい』と僕がいったら彼は『いやこういう風にするんだ』と強いこだわりを持っていたんですね。僕ははっきり強く言うのにあまり慣れていなかったので、CTOの僕が言ったら実質的に意思決定でしょと言外に伝わると思ってたんです。でも彼は客観的に議論したかったんでしょうね。こういう設計とああいう設計と二つあるからそれの比較をしてみようと。お互いに違う意見を持っているということは言語化していない要素があるんじゃないかと思っていたと思うんで。最終的には僕はCTOだからという感じで押し切ってしまったものの、そこで彼が満足する形で決めてあげることできなかったので自分の中では後味の悪い経験でした。それは僕の中では失敗でしたしそこから学ぶこともたくさんありましたね。

なるほど!傾聴することや客観性、許容力が大切ということなんですね。

あとは雑談力がそもそも足りなかったなと感じますね。仕事じゃない話を仕事の場で積極的にしていかないと、特にバックグラウンドが違う人ととか連帯感が生まれづらいというのは間違いなくあったので。なんとなくそういう話を仕事中に話すのは僕はいけないと思っていたんですよね、それは仕事時間外に飲み会とか行ってやるのがいいと。そういう感覚がなくてそこに気づくのに若干時間がかかって損しましたね。英語の技術的単語は実はそんなに難しくないんですが、突っ込んだ話をするにはもう一段上のスキルが必要で時間がかかるというのはあると思いますね。

地域による常識感の差には目を見張るものがあります。ヨーロッパの人は、セクシャルジョークに寛容な人が多かった。アメリカ人の中には非常に単刀直入に、他の人にはキツイと思うような話し方をする人もいます。そういうのは配慮の足りなさというネガティブではなくて率直さというポジティブに捉えられているようです。日本の人は、年齢の話に寛容だし、人種・宗教の話がアメリカほどタブーではありません。どのくらいのことが許されるのかとか線引きとかが違うのですが、基準が地域で違っている事を知らない人にとっては、誰の線引きにも抵触しないような線の引き方をすると、狭いな窮屈だなと感じられてしまうという事もあります。

インタビュー後編「常に周りに存在する『異質』を探し続ける力と言葉のニュアンスを失わずに意思を伝える方法」へ続く

前編では、現在のご経歴を持つまでに至った経緯、マネジメントでの失敗談や気をつけていることなどについてお話を伺いました。

後編では、会社をリモートにすることのメリットや、日本でのオフショア開発と海外から見た日本人エンジニア像、そして今後の展望などについてお話を伺います!

(後編)常に周りに存在する『異質』を探し続ける力と言葉のニュアンスを失わずに意思を伝える方法
【Launchable, Inc 川口 耕介 氏】

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