(後編)常に周りに存在する『異質』を探し続ける力と言葉のニュアンスを失わずに意思を伝える方法【Launchable, Inc 川口 耕介 氏】

前編では、現在のご経歴を持つまでに至った経緯、マネジメントでの失敗談や気をつけていることなどについてお話を伺いました。

後編では、会社をリモートにすることのメリットや、日本でのオフショア開発と海外から見た日本人エンジニア像、そして今後の展望などについてお話を伺います!

川口 耕介 氏 | Launchable, Inc

大学在学中に有限会社Swiftを設立。01年Sun Microsystems入社。02年コーネル大学大学院で修士号を取得し、翌年Sun Microsystemsに復帰。在職中にJenkinsの元となるCIツール「Hudson」を開発。その後米CloudBeesに在籍し、CTOとしてJenkinsや関連サービス・製品の発展・普及を推進、現在も同社でアドバイザーとして活動を続ける。近年Launchable Incを立ち上げ、世界中のエンジニアと協働。日本での業務委託も開始し、現在に至る。

会社の文化は勝手に作られるのではなく、自らが設計して作るもの

グローバル人材

リモートワークでの社員のモチベーションの保ち方というものはありますか?

社員はみんな世界中の色々な国にいて、パンデミック前からリモートでやっていたのでコロナ禍になってから初めてリモートワークを指向した会社に比べたらずっと楽だったと思います。そもそもリモートでも仕事できる人しか集めていないので。小さい会社でもありますし、リモートワークの中で絆を育てるための仕組みは最初から色々つくってありましたし。雑談するための時間とか、月イチで仕事を離れてみんなで何かの同じ活動をする、rocket fuel dayという制度もあります。絵を描いたり、自分のことについて話したり、遠出をして写真を撮ってきたり、ダンスカバーをみんなで作ったり、色々な事をしてきました。とはいえ、リモートの会社では時々は実際に会うという事が大事になるので、それが出来なくなってしまったのは大きな痛手でした。

会社をリモートにすることへのメリットはなんでしょうか?

最初から皆がリモートだとそれに合った形で文化を設計できるんですよ。会社の文化は勝手に作られるのに任せるものではなく設計して作るべきものだと思っているので。例えば我々の会社では時差もあるので物理的に同じ時間に集まって決めることはあまり合理的ではないんですね。そうすると文字ベースで意思決定するための方法論を確立すればいいだろうと。何か決めるときはその文脈や意思決定を書くようにしたんです。『うちの会社ではこういう形で意思決定するんだよ』と刷り込んでいくと、記録を通して、前提やファクターを考慮した上でこういう決定になったということが分かるんですね。後で前提が変わったら意思決定を直そうということもできるし、決定に関わらなくても結果に影響する人はそれを見ると分かる。これにより会社としての透明性が高まるという仕組みです。

社員同士で物理的な距離がある状況でも、より正確に情報を伝えるカギは設計された文化による伝言方法だったんですね!

Sunの時は大きな拠点がいくつかあってリモートしている人が何人かいる状態だったんですが、それではリモートしている人に情報が届かなかったんですよね。だからその人たちが損することが多いんですが、最初からリモートだとそういうことが起こらないのが僕はむしろ良いなと思うところです。

アメリカを拠点として働かれる川口さんから見た『日本人』と、文化が異なる中でのコトバの伝え方

海外進出

オフショア開発に携わられていたことはありますか?

今の僕にとっては日本がオフショアなんですよね。日本の会社がオフショアをやってとかそういうことはやったことがないです。

日本でのオフショアということで、それを始めるに至った背景を教えてください!

日本にも技術者の知り合いはいるしこちらでずっとキャリアを続けていたので、日本の技術者コミュニティと海外のソフトウェア産業が繋がっていないのはちょっともったいないなと思っていたんです。アメリカからヨーロッパとインドくらいまでは一つの巨大なネットワークがあって、CloudBeesではそのエリアの色んな所に従業員がいたんですが、そこでは日本人は視野に入っていなくて悔しいなと感じていました。ということもあって、自分で会社を作るときにメインで日本人エンジニアのチームを作る方が合理的だという話になり、僕にとってもチャンスだと。ここでインパクトを残せれば、今の会社に関わってくれている人達が、ああ日本でソフトウェア開発というのはアリだなと思って次の会社に行ってくれるわけですよね。そしたら、こういう形態がもっと広まっていくと思います。そうなるようにしたいなと思っています。

日本でのオフショアをやってみて難しいなと感じたことはなんですか?

一つは英語ですよね。インドやヨーロッパの人は非常に流暢に英語を話すんですが、日本人は英語があまり上手ではないので議論や細かいニュアンスでやりとりをするときに損をしてしまいます。5割くらい。逆に返せば、うちの会社では僕を始め日本語が出来る人がアメリカ側にいるので、この損が他の会社ほど大きくないから、比較優位があります。やはり太平洋の両側を結ぶ橋を作ろうと思ったら人の繋がりと言葉を工夫しなきゃなと考えています。

日本人エンジニアの特徴についてどうお考えですか?

プラスの方で話すと、日本のエンジニアチームはチームを優先するというか、お互いのやりたいことをすり合わせてみんなの納得できる意思決定をすることが上手くて早いし、我が強くないところがいいなと思います。アメリカだと今あるソフトウェア作りのチームではみんなが言いたいことを言ってなかなか話が進まないということはあるので。

ただ、エンジニアはこれが世の中で動くのかという客観的な評価基準があって、それに対してできるだけ合目的な問題解決の方法を選択していくということなので、その時にいろんな違う意見を持った人たちがこの方法だとこういうメリットがあってあの方法だとべつなメリットがあって…という意見をぶつけられる機会がないと最善の手が選ばれないんじゃないのか思う時はあります。

言葉の壁についてどう思われますか?

前編でうっかりOKといったら相談モードに入られてしまったという話をしましたが、言葉の背景には共有されている文化があってコミュニケーションが成り立っているんですよね。だから言葉の壁は文化の壁でもあります。技術者の仕事も以前と比べてずっとチームワークになっているし、言葉がうまく使えないことで、依頼やタスクの受け渡し、成果の報告やアピール、ニュアンスを伝える、そういう事が出来ないのはもったいないと思います。日本語だけで完結する経済圏はどんどん小さくなる一方なので、やはり英語でコミュニケーション出来るスキルというのはどんどん大事になる一方だと思います。うちに来てくれている人達はそういう感覚をみんな共有しているように思います。

弊社とは逆に日本に本社があって外国にオフショアしている人達は、コミュニケーションの方向は反対になると思うのですが、一応英語で何とか会話出来るという水準と、お互いにきちんと意思疎通出来ているなという安心感を感じるコミュニケーションが出来る水準との間には大きな隔たりがあると思います。そういう橋渡しが出来る水準でコミュニケーションできる人がもっと日本に増えてほしいと思います。

アメリカでの仕事をされている期間が長いですがその中でも日本との繋がりは大きなものですか?

そうですね。僕は世の中に何を残せるかと思ったんですね。ある種の爪痕を残したいと。一つは自分の作ったソフトウェアは手応えを得ましたし。日本とアメリカを繋げることができるスキルセットを持った人が少ない中で自分の培ったキャリアがそこで役に立つんじゃないのっていう気持ちは確かにあります。

身近で「異質なものを見つける」こととの重大さと難しさ

オフショア

文化の違いと言ったところで工夫されたことはなんですか?

日本は均質性が高いんですね。フランスとイスラエルも当てはまるんですが、国内で1つの歴史ある濃い巨大な文化が共有されていて、その文化の内部ではわずかな仕草・言葉で濃密にコミュニケーションをとれるんですが、中の人にはその文化が空気のように当然過ぎて、文化を共有していない外部の人の感じる入りづらさが全然わからないままになるという事があって。排他的な文化だ、と言われても何を言っているの?ってなっちゃう。反対にヨーロッパや米国にはいろんな人がいるから、人はみんな違うからよくわからないと思って取り掛かろう、というのが大体の共通認識になります。そういう風にスタート地点が違うので、日本を始め濃い文化圏が出自の会社が文化の薄く多様性が大きい地域に出ていくと、そこで初めて未知なるものを体験するので、今まで自分の会社で当然だったものがそこに来た時には通用しないということはあるかなと思っています。

工夫するという話なんですが、一ついろんな人に言っているのが「異質なものを積極的に探しもとめていこう」ということです。異質さっていうのには本当に色々な軸があります。国籍の話はしましたが、例えば男女の性差なもそうですよね。技術のコミュニティって圧倒的に男性が多いので、そこに働くお母さんとが入ってくるとします。すると、一日八時間机を並べて顔合わせで意思決定するという文化だと、そういう人達が弾き出されてしまうんだなと学ぶことができますよね。人は愚かだから、そういう人達が目に入らないと、理解することが出来ない。でもそれは、逆に言えば目に入れば理解できるという事でもあります。だからそういう目に入っていない異質さを探し求めて行かないといけないと思います。言うは易し、行うは難しですが。そういう異質さの軸というのは、国籍・人種・性差みたいな分かりやすいものの他にも、たくさんあると思います。

確かに!いつどんな時でも、自分が気づけていないけれど常にエネルギーや影響を与えてくれている人やモノ、環境って存在していますよね!

みんな一人一人がある種の寂しさというか爪弾きとかを感じたことはみんなどっかではあるはずで、その体験を振り返って、今自分が感じている肩身の狭さのようなものをちょっと軸を変えてみると他の人が感じている入りづらさみたいなものに繋がるんじゃないかと。そこで自分の体験と繋げて分かってもらおうということは僕の取り組みのテーマの一つです。

理想的なチームとはなんだと思いますか?

ソフトウェア作りと一言でいっても、環境や場所や文脈や制約は様々なので、何がベストかが変わってくる気がします。ですからこれが理想的なチームだと一言で表すのはできないと思います。最近思うのは、眼の前に今あるチームが理想のチームということです。だからそのチームの何がいいのかということを指摘して言語化できるスキルを磨きたいです。一緒に仕事をしていて楽しいなと思うんですよね。そういったものが僕の理想ですね。

今後の展望について教えてください!

事業を拡大していって軌道に乗せるというのは端的には一つのゴールですね。でももっと大事なのは自分たちの作っているものが世の中にインパクトを残すということです。Jenkinsの仕事の成果があるから今の僕にはチャンスがあるのでそれをうまいこと使ってやっていきたいなと思うしその過程をエンジョイしていきたいです。

会社というのはどこかの時点では潰れてしまう運命だと思うので、やっている間にやりがいや、いい出会いなど、旅路の中から充実感を感じ取れる力を身につけてきました。また、特に小さい会社では違う職種の人とやり取りすることも多く、そういう中でセールスとかマーケティングなど様々な道のプロから色々な事を学ぶことができます。とても、楽しい。僕はそうしてエンジニア的な発想やスキルセット以外も身につけてきました。そういう自分の発展ももっと広げたい。

あとは日本とアメリカのソフトウェア産業を繋げたいのでそのために日本でいいものを作ってビジネス的に成功して『日本のエンジニアチームを作る』という選択肢もあるということをより多くの人に持ってもらいたいです。日本人で海外で働きたいと思う人は一定数いるので頼もしいと思うんですが、彼らの過半数は大きな会社にいきたいという人な気がするので、それ以外にもルートがあるということを知ってもらうこともゴールです。

最後に【若者はどんどん国境を超えていこう!】

東南アジア

海外で活躍していきたいエンジニアにメッセージをお願いします!

本来であれば、若い人が海外で試してみようというほうが簡単なはずなんですが、ビザの関係でアメリカに移住して働くのは法律的に難しいんです。とはいえみんな世界から来てここで仕事している人が結構いるので、みなさん何かしら面白いチャンスを見つけてここへ来て欲しいです。海外留学でもいい。とにかく飛び込んでみると圧倒的に学びも多いし人のネットワークもできるし何かの道が拓けてくる。だから若者はもっと外に出て欲しいですね。

会社を通して海外に出るのはビザの手続きとか含めずっと簡単なんですが、そこにもやはり言葉の問題があって。時差の壁、言葉の壁、文化の壁という三つの壁をどういっぺんに乗り越えるのかと。それを例えば台湾移住だったら、時差はほとんどないけど言葉は違うという風に一つずつ壁を乗り越えて少しずつレベルアップできればいいかもしれないですよね。あとはやはり英語。

日本の会社が世界に繋がらないと日本の国内市場だけだと立ち行かなくなるので、時間があるうちにみんながいろんな方法でトライしてたくさんのところで小さな成功ができてほしい。いろんな人がそれに関わって、その人たちが次の会社で成功のタネを広げて行かないと間に合わないと思うので、みんなで頑張りましょう。


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