「オフショア開発」。IT企業の方なら一度は聞いたことはあるでしょう。
オフショア開発とはサービスの開発費用を抑えるために海外のシステム会社に委託することを言います。日本では圧倒的なエンジニア不足のため、海外のリソースも活用しないとサービスが回らない現状です。IT人材白書2018年度調査によれば、90%以上の企業がエンジニアの不足を感じています。
IT企業のIT人材の“量”に対する過不足感【過去5年間の変化】(出典:IPA IT人材白書2019)
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そこで、海外の開発会社に開発を依頼する企業が増えています。
ベトナムやミャンマー、マレーシア、フィリピン、バングラデシュ、インドなど成長著しい東南アジア諸国への依頼が増加している一方で、充分に活用できずに頭を抱えている企業がいるのも事実です。
今回はベルトラ株式会社で開発責任者として上場を経験し、現在はマレーシアを拠点に自身でもオフショア開発事業を行っている松尾さんに、オフショアに関わる失敗や言語の壁の問題、今後海外進出していく企業に向けてのメッセージをインタビューしてお送りします。
松尾直幸 氏|VELTRA Malaysia Sdn Bhd
九州工業大学卒業後、国内大手Sierに入社。Wimaxの開発に携わり社内の代表として海外イベントに参加。
インドで4番目の大手Sierに転職し、国内大手自動車会社のアドミンシステムをインドオフショアで開発するブリッジSEとして活躍。その後、エンジニアリングを行うため5名で東京、マレーシアの2拠点に会社を設立。CTOとして現地クアラルンプールのITチームビルディングおよび教育を行う。2011年、国内旅行会社ベルトラへ転職。システム構築・社内開発チーム立ち上げを行いシステムの完全マイグレーション成功させる。その後、マレーシアに開発ブランチを設立。現地ダイレクターを行いながら、東京・マレーシアの2拠点を成長させる。2018年には執行役員の立場でマザーズ上場にも関わる。エンジニア評価などITチームに関わる全てを行った。
海外オフショア開発で最も苦労した「常識の違い」
外国人エンジニアのマネジメント(オフショア開発)で一番の苦労したことはなんでしょうか?
オフショア開発をする上で私が最も苦労したのは「常識の調整」でした。
当たり前ですが、海外と日本では文化も環境も違うので、常識も違います。
相手の常識と自分の常識をすり合わせるのに私は2年かかりました。
私がよく使っている例で「カレーライスの話」というものがあります。
カレーライスですか!?面白そうな例えです
日本人3人に『カレーライスを作って』と言ったら、基本的には自分が想像していたものよりもあまり違わないカレーライスが出てくるでしょう。
今度は、海外の10カ国のひとにカレーライスを作ってと言ったら何が出てくるでしょう?
日本人が想像しているカレーライスが出てこないのはわかります(笑)
・カレーライスなのに、ライスがなかったり
・ナンが一緒についてる場合もある
・そもそもカレーって何?って人が出てきたり・・・
自分が思い描いているカレーライスは世界からみたら、一例でしかないという常識を理解していないと思い描いているカレーライスを食べることはできません。
もし、日本人が思うカレーライスを作って欲しい場合はどうすれば良いでしょう?
私なら、
①まずは材料を買ってきて
②作り方のレシピを用意して
③完成画像を見せる
これでたぶんイメージ通りのものが出てきます。
でも、野菜の切り方や、フライパンの使い方、皮のむき方などは教えないでも大丈夫。
じゃがいもを切らずに洗わないで入れる人はさすがにいないはず。。。(笑)
オフショアの失敗でよく品質が悪いなどと言われていますが、それについてはどう思われますか?
品質の悪さも常識の違いから起こります。
例えば、日本の電子レンジは100個に1つだけ壊れるとします。それはテストを10回重ねているので、この品質が保たれます。
海外では3回しかテストをしないので、100個に10個が壊れます。この場合、基準の品質は1/10です。その代わり、早くローンチしようという考え方がある。
品質に限って言えば、3回テストでローンチされた電子レンジの品質を当たり前として生きてきた人たちが作る側になったとき、10回もテストをしようとはならないですよね。
オフショアでも同じように、サービスの開発テストの回数によって品質が違うものが出てくるのは当たり前です。
この品質の常識を身につけることがオフショア開発でも成功の鍵となります。
言語は問題じゃない。むしろ技術経験がない通訳がネック。
どうやってその感覚を身につけたのですか?
実際に経験して自分と相手がどれだけ違うのかを身にしみて感じる必要がありますよね。
私も実際に2,3年経験してやっと分かったことなので、飛び込むしかありません。
飛び込むと言っても英語ができない人も多いと思うのですが…
英語は問題になりません!(笑)
例えば、家を建てるとき、同じ技術者同士なら設計図があれば、ある程度は伝わりますよね。
インプットに対してどういうアウトプットが出てくるのか技術者同士は想像できるので、あまり言語的な問題は私自身も感じたことがないです。
むしろ、ベトナムとかでは、ブリッジSEの他に通訳が入ることが多々あります。
ベトナムでは英語が通じないことが多いので、日本人SE → 通訳 → ベトナム人エンジニアの順番で伝える必要があるんです。
ただこの通訳は技術がわからない一般の通訳さんです。
技術を知らない人が間に入ったほうがよっぽど大きな壁が生まれます。
日本語で考えてみても全く同じなのですが、例えば技術的な話を 私 → あなたのおじいちゃん → あなた に伝えようとしても全く伝わらないですよね。
技術バックグラウンドがある人と直接話せないことのほうが言語的な壁よりもはるかに大きいんです。
アメリカ・イギリスなどの国でも同じですか?
英語がファーストランゲージな国だと難しいかもしれないですね。
日本語がカタコト同士の外国人の方が話が伝わっているみたいな現象と同じで、英語ネイティブな人にはしっかりした文章で話さないと伝わりません。
その点、私がいるマレーシアは長い文章は嫌いなので、ほぼ単語ベースみたいな形でどんどん話が進みます。
もちろんグーグル先生のちからを借りたりもしますけど(笑)
あとマレーシアは中華系の人も多いので、漢字を書けば伝わったりします。
今回日本来るときに「隔離」っていう漢字を書いたら、”Quarantine”のことねって理解してくれました。
国内の圧倒的エンジニア不足。
どうせ今後5年で海外へ出るなら、今出るほうが良いに決まってる。
最後に海外に活躍の場を広げたい企業へ一言頂けますか
日本は圧倒的にエンジニア不足です。
その時に目を向けるべきはやっぱりアジアです。
基本的に時差が2時間以内なので、日本と同じ感覚で仕事ができます。
8時間も離れた場所だと1回のやりとりで2日必要だったりして、スピードが圧倒的に遅くなってしまいます。
言語の壁も実際に来てみたら大したことありません。
問題は常識や文化の違いです。これは失敗しながら経験していくしかありません。
どうせ今後5年で出るなら今出るほうが良いに決まってます。
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