海外エンジニアマネジメントは明確なルール作りから始まる【BRYCEN MYANMAR 成田雄一氏】

近年の東南アジア諸国の急速な経済発展によって、これまでオフショア開発でコストメリットが大きかったベトナムやフィリピンの人件費が高騰していることをご存知でしょうか。オフショア開発白書2021年版によると、開発委託先として人気のあるベトナムやフィリピンは昨年比10-25%も人件費が高くなっており、IT大国の中国やインドに追いつきそうな勢いです。

そこで注目されているのが、ここ数年で大きく市場規模を拡大しているミャンマーです。ミャンマーは東南アジアで最も西側に位置している仏教国であり、近年の経済発展は著しく、特に首都ヤンゴンには日本企業が次々進出しているそうです。コロナやクーデターで一時混沌としてはいましたが、IT業界においてエンジニアの人件費を見ても、これまでご紹介した国々よりは比較的低コストで委託でき、後ほどインタビューでも伺いますが、IT人材のリソースも豊富だそうです。

オフショア
関連資料:
オフショア開発先国別の人月単価(出典:オフショア開発.com オフショア開発白書2021年版)

今回はミャンマーの現地法人BRYCEN MYANMARで現代表を務め、100人以上の現地社員をマネジメントされている成田さんに、海外志向がないところから海外法人の代表を務めることになるまでの経緯や海外エンジニアマネジメントで意識していること、ミャンマーでのオフショア開発の課題感・今後の展望などを伺いました!

成田雄一 氏 | BRYCEN MYANMAR Co., Ltd.

専修大学卒業後、IT企業株式会社ブライセンに入社しエンジニア、及びブリッジエンジニアとして活躍する。
入社後すぐにベトナムのメンバーとのオフショア及び開発業務に従事する。
その後エンジニアとして業務アプリ、組込みアプリの開発や大手飲料メーカーのWebアプリ、BtoCサイトの運用を日本採用のミャンマー人と共に従事し、
2018年10月よりミャンマーに移りBRYCEN MYANMARのIT Managerとして現地案件、オフショア案件、教育、採用など成長、拡張に携わる。
2020年4月よりManaging Directorを務め、現地正社員100名以上、ヤンゴン、マンダレーの2拠点を管理する。

海外研修がキッカケで、ミャンマーへ自ら手を上げて赴任

ミャンマー

エンジニアを目指そうと思ったキッカケは何でしたか?

大学でネットワーク情報を専攻していて、そこでは幅広くデザインや開発言語、戦略などを学びまして、その頃にはITを駆使したところへ行きたいなと思っていました。そういった経緯からエンジニアになりたいなと思いまして、今のBRYCENに入社しました。

いつ頃から海外志向を持たれていたのでしょうか?

入社した時に海外志向はなかったですし、英語などのスキルも全然なかったです。ただ、2017年に社内研修、視察として1週間ほどミャンマーとカンボジアにあるグループ企業を訪れまして、そこの現地社員を見た時に自分でやるべきことがあると感じました。それまではコーディングや運用がメインで、マネジメントサイドにはそこまで携わっていなかったのですが、そういった出会いやミャンマーの社長からのお誘い、社内公募もあったので、自ら手を挙げてBRYCEN MYAMMERに赴任しました。

海外赴任の前にもベトナムのメンバーと開発を行なっていたのですよね?

オフショア開発の業務ではベトナムのメンバーが開発したものを、日本でレビュー・テストしていました。当時はSkypeやRedmineを使ってコミュニケーションをとっていたんですが、ベトナムのメンバーが研修として日本に来ることもあったので、そういう時はオフラインで要件定義などもやっていました。

ベトナムとミャンマーでの海外エンジニアマネジメントを経験

エンジニアマネジメント

海外エンジニアをマネジメントする中で苦労されたことを伺いたいです。

ルールを作ることがベトナムのメンバーに必要なことでした。WBSを作って、仕事の進捗はいつまでに報告するのかを明確にし、もし終わっていなければなぜなのかをはっきりさせました。最初は細かいスパンで見ていったので大変でしたが、向こうがやり方を理解してきたら、少しずつそのスパンを長くしていきましたね。

また、コミュニケーションの取り方として、向こうが「できる」と言っても鵜呑みにせず、本当にできるのかを何度も確認する必要があると感じていました。

マネジメントをしていて、ベトナムとミャンマーでも違いはありましたか?

あくまで私の感覚の話ではあるんですが、ベトナムとミャンマーで違いは感じました。誤解を招きかねないですが関わった中だとベトナム人は生産性もスキルも比較的高く、作業スピードも早いですが、どんどんと進めてしまう傾向にありました。

対してミャンマー人は丁寧で真面目で慎重なので、時間はかかりますが理解しながらやろうとしてくれて、分からないことはどんどん聞いてくれます。弊社だけかもしれませんが、ベトナムとミャンマーでも文化や価値観はかなり違うように思います。ただ、どちらにせよ現地エンジニアのそういった価値観を尊重することが大事です。

価値観の違う彼らとどういった関係を築いていたのですか?

上司と部下であっても、対等な関係性を築くことが大事だと思います。私は出来ないことを怒るのではなく、出来たところを評価しています。もちろん間違っている部分ややっていない部分は指摘、注意は行いますが、現在の日本以上に気も遣いますし、その後のケアも大事にしています。上司がちゃんと見てくれているということ自体が彼らのモチベーションにも繋がっていると感じ、パフォーマンスが段違いに変わります。

ミャンマー現地企業赴任後、マネージャー・ブリッジSE・教育・人事等に携わる

マネジメント

ミャンマーに行かれた後は、どのような業務に従事されていたのでしょうか?

ミャンマーへ訪問した後、ITマネージャーとしてBRYCEN MYAMMERへ入りました。その当時はオフショア開発がまだ少なく、ミャンマーの現地企業のシステム開発をすることが多い中で、私は日系企業との調整や現地社員のプロジェクトマネジメント、教育・サポートがメインでした。

ただ、私がミャンマーへ行ったことで、それまで日本で関係のあった企業様等が、「成田さんがいるならミャンマーにオフショア出しても大丈夫ですね。」と信頼していただけて、オフショア開発案件は増えていきました。そういった背景もあり、ブリッジSEや採用・アサインも仕事内容になってきています。

現地社員の教育とありましたが、具体的には何をされていたのでしょうか?

主にルール作りをしていましたね。BRYCEN MYANMARの前社長がITエンジニアではなかったので、エンジニア領域の部分がミャンマー人だけで作られていました。通常の日本企業では当たり前に統一されている部分も個々が自由に行っていて、管理ができる環境とはとてもいえない状況だったので、サーバのフォルダ・ファイルの置き方から始まり、コーディングルールや設計書のフォーマット、スケジュール管理の仕方なども統一、教育しました。その際には、ベトナムで作っていたルールをミャンマーでも展開をして、教えていきました。

コミュニケーション

ミャンマーで採用する際の基準を教えてください!

エンジニア採用で重視しているのは技術と性格です。案件に見合った技術の部分は簡単なアプリを作ってもらって技術力の確認をしています。あとは面接で、コミュニケーションを取りながら決めています。その人が将来的にどのようなキャリアパスをイメージしているのか、弊社でも続けて行けそうな人材かも含めて判断しています。弊社は日本語が必須ではないですが、性格が弊社の雰囲気に合っていないと判断したら、たとえ技術スキルが高くてもお断りしています。

現地採用の場合、どのように募集をしているのでしょうか?

Facebookを活用しています。ミャンマーでは殆どの人がFacebookを使っていて、ブラウザ検索もショッピングもFacebookで完結しているようなものなので、弊社のページに採用情報を投稿しただけでもかなりの応募がありました。

先ほどはベトナムでの海外エンジニアをマネジメントした時の苦労を伺いました。
ミャンマーでのマネジメントではどのような苦労をされましたか?

技術力はあるけれども、ノウハウの共有や設計書・テスト、コーディングの共通化によってメンテナンスコストを抑えるという考え方が全くなかったことですね。ベトナムも発足当初は同じだったとは思うのですが、ミャンマーで日本的には行われていることは実施されていませんでした。全てが全て日本流にするつもりはなく、ミャンマー人の特性に合わせた形にする必要があり、まずは方法を説明してエンジニアと話し合いながらルールを作って、教えて、実行してもらうのは一番苦労したところです。飲み込みは早いのですが、認識が違ったり、優先順位が違うことは多々ありましたね。

優先順位の違いとは、どういうところで感じましたか?

色々とありましたが、一つは資格を重視することですかね。「こういうことをやってほしい」とお願いした時に、ベトナムのメンバーは自信を持っているのか、出来ないことでも出来ると言って取り組むのですが、ミャンマーのメンバーは出来ないものは出来ない、もしくは勉強して資格をとってからやりますと言った感じで、とりあえずやってみるという考えが比較的少ない気がしています。またBRYCENグループは高品質・高付加価値を重視しているため、品質の優先順位を上げる意識付けを定期的な教育を行うことで忘れないようにしてもらっています。

オフショア開発の課題感と今後の展望

海外進出

オフショア開発の課題感を教えてください!

海外に出たことがある人とミャンマー国内だけで過ごしてきた人の考え方の違いですね。海外で経験を積んでいる人は周りはこうだからと、自分に足りないところは新たに学んだりするのですが、国内だけの人は自分の今のレベルに満足しがちで、あまりそういうノウハウを学ぶ手法を知らなかったりします。その辺を考慮して、お客様にも彼らはこういうところがあるので、と注意事項をお伝えしてます。

また、弊社は少ないですが社員が辞める割合は高いです。ミャンマーは退職金が無いので、そう言う意味では一つの会社にずっと在籍することにあまりメリットはありません。弊社は外資と比較してすごく給料が高いわけでもないので、いかにして会社が良い場所だと思ってもらえるかが大事です。前社長がBRYCEN MYANMER風土を作り上げてくださったので、私たちはそれを崩さないよう、より良いものにしていこうと思っています。

オフショア開発で人が辞めてしまうのは結構なリスクです。1年契約なのに人が辞めてしまって、新しいメンバーの導入に時間がかかってスケジュールが遅れてしまうこともありうるでしょう。エンジニアは日本でもミャンマーでも離職率は高いので、辞めることを想定し多めにアサインしておいて、多少辞めてもノウハウがすぐに伝えられるようにしておく必要があると思います。

今後の展望を教えてください!

日本国内ではエンジニアのリソースが少ないですが、ミャンマーではIT人材はどんどん増えています。ITで働くというだけでも一つの価値があるので、大学でITを学ぶ人が増えていますし、都会でも地方でもIT人材は増えていて、今後はさらに拡大していくだろうと思います。また、ミャンマーはこういったご時世もあり、日本に行きたいと思っている人も増えています。オフショア開発としても、日本への人材紹介としても、ミャンマーの優秀な人材を活用していってほしいなと思います。

最後に

これから海外へ活躍の幅を広げていきたいと考えている方々へメッセージをお願いします!

【企業向け】ベトナム・ミャンマーにはIT人材のリソースが日本より全然ありますし、コストも現段階では日本よりもかなり低いコストで開発ができます。コミュニケーションに関しても、最初はコストがかかると思いますが、優秀なメンターが御社もしくは海外側に居れば問題なく出来ると思います。弊社は私の他にも日本人がおりますし、日本語が問題なく話せるミャンマー人を用意することも可能です。日本と2時間半の時差しかないので、どんどんオファーをいただければと思います。

【個人向け】私自身は元々海外志向ではなかったですし、挑戦する前は「日本でもっと経験を積んでから…今のスキルで海外に出ても…」と思っていました。でも実際に海外に来てみたら、もっと早い段階から挑戦しておけばよかったと思いましたし、海外で仕事をしていると、同僚や他の企業の方々も含めて、海外で活躍する日本人にかなり刺激を受けます。ぜひこの記事を見ている方とも、海外で一緒にできたら良いなと思っています。


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