技術を理解しているマネジメントの重要性 〜オフショア開発拠点でのプロジェクトマネジメント〜【Sharing Innovations Vietnam 根本崇司氏】

日本のIT業界は慢性的な人手不足に陥っており、これからも国内人材だけでは人手不足は加速する一方でしょう。IPA(2020)によると、2019年度に1000社弱のIT企業のうち93%の企業がIT人材の不足を感じており、全体の26.2%は大幅に不足していると答えています。今まさにDX化の推進を日本中の企業が取り組んでいる中、人材が不足していては開発案件を十分に進めることができなくなってしまいます。

IT
関連資料:
IT人材の“量”に対する過不足感【過去5年の変化】(出典:IPA IT人材白書2020

そんな中、IT開発の業務を海外企業に委託する「オフショア開発」を活用することがその解決策の一つとなっています。オフショア開発白書(2021)によると、オフショア開発委託先国はアジアの国が多く、中でも全体の52%はベトナムに委託していると回答をしています。親日国で地理的にも近く、近年はIT人材育成に国をあげて取り組んでいることから、日本企業の多くがベトナムを指定して委託しているようです。

オフショア

関連資料:
オフショア開発委託先国別ランキング(出典:オフショア開発.com オフショア開発白書2021年版

今回は、2007年に株式会社ムロドーを共同設立され、ベトナム開発拠点の立ち上げにも携わり、現在は同社でCTOを務めている根本さんから、海外エンジニアのマネジメント方法、現地採用する際の大事なポイント、今後海外進出していく企業に向けてのメッセージをお送りします。

根本 崇司氏 | Sharing Innovations Vietnam
明治大学卒業後、組込系システム開発会社のBeatcraftに入社しエンジニアとして活躍。
2004年に株式会社ぐるなびに転職し、開発総責任者としてベンダー数社をマネージしつつ、検索システム導入、オンライン予約システム企画・設計・実装等を担当。
2007年、「情報の再発見と流通」を理念として株式会社ムロドーを共同設立し、2012年Mulodo Vietnam Co., Ltd.(現・Sharing Innovations Vietnam)共同設立。2015年5月より代表。『TechCrunch50』セミファイナリストとなる。

文系大学院からエンジニアに、そして起業へ

エンジニア

大学卒業後、エンジニアになったきっかけを教えてください!

元々文学部の学生で、大学の先生になりたかったので大学院の博士課程まで行っていました。でも当時起きたバブル崩壊を受けて働こうと決心し、30歳の時に11年いた大学を辞めたんです。ITの経験は無かったのですが、友人の紹介でエンジニアの会社に就職をして入社直後に同僚たちと新しい会社を作りました。当時はインターネット黎明期で、インターネットを使うことやホームページを作ること自体が仕事になる時代でした。インフラからシステムまで触る必要があったため、最終的にはWebシステムのバックエンドから、Linuxのカーネルをいじるところまで叩き込まれたんですよ。

その後にぐるなびへ転職された理由は何だったのでしょうか?

当時やっていたことがかなり幅広くて、コンピュータの根幹の組み込みからインターネットのwebサイトを作るところまで仕事としてやっていました。しごかれながら色々とできるようになった時に、結局自分は何がやりたいんだろうと考え始めたんです。

元々、大学では人が商店街を選ぶ基準を研究していたので、人がお店を選ぶ要因などに興味がありました。転職先を考えた結果ぐるなびに受かりまして、これでレストランの情報が凄くたくさん手に入って面白いサービスを作っていけるとワクワクしながら入社しました。
しかし、入社して1週間でそのサービスを考えるのは企画部で、開発部は作る方だということに気づいたんです(笑)ただエンジニアリングも無いとサービスは成り立たないので、企画部や営業の人と仲良くなって企画の打ち合わせに出させてもらったことで、色々と作りたいものを作れるような環境になりました。

そこからどういった経緯で、株式会社ムロドーを共同設立されたのでしょうか?

会社が大きくなり新しいことやるために退職を考えていた時、最初の会社で出会ったある方と話す機会があり、彼も当時勤めていたNTTを辞めようと考えていたようで、そこから一緒に会社を作ろうという話になりました。それが株式会社ムロドーです。そこではNTT系の研究開発をやったり、コンサルと実装を混ぜたようなことをやっていました。

海外のエンジニアをマネジメントする方法

マネジメント

ムロドーを設立されてから、ベトナムに拠点を作ったきっかけは何だったのでしょうか?

設立当時はレベルの高く気の利くエンジニアだけで難しい案件をとって4人とかで回していたんですが、なかなか人が集まらず…。ベトナム・タイ・フィリピンなどでオフショア開発を頼んでみることになったんです。しかし、それらの国に行ってオフショア開発を頼んでくるはずだったメンバーから、帰国していきなり「ベトナムで会社を作らない?」と言われ、いきなり面接が10件ぐらい始まったんです(笑)実際にベトナムに行き、面接をしてみると、彼らは優秀で情熱もあったので、凄く良いなと思いベトナムでやる決心をしました。

最初はプロジェクトマネージャーの育成をしていまして、日本のやり方をそのまま踏襲していたんですが、大失敗しました。文化的な考え方も違い、思考も違い、何とかなるだろうと思っていましたが全然上手くいかなかったです。そこから大きくやり方を変えて開発のルールを決めたことで、70%ぐらいはルールで何とかなる状態になりました。

ルールを決めることが大切なんですね

大事ですね。でもルールを与える時に、それが理にかなっていないとダメです。ルールを守った方が「楽ですね」とか「役に立ちますね」と実感し、彼らもそれをやりたいと思ってくれる形にならないと上手くいかないと思います。ルールを守らせることそのものより、ルールを守ることで規律を保ちクオリティが保たれ、早い段階でチェックができるなど、ルールを守った先のゴールを常に考えながらやっていきました。

日本だとその辺のルールがふわっとしているイメージなのですが、今までお話を伺った海外エンジニアをマネジメントされていた方々もルールをしっかり決める方が良いと仰っていました。

私自身も緩い方が好きなんですけどね。ただ「その仕事はジョブディスクリプションに書いてありません」と言われたらその通りですし、そういうものなんだと思います。そこはなるべく固めにしていますね。入社時に面談をして、自分たちの会社はこういうことやっていて、こういう考えで動いていてという資料は作って説明しています。

コミュニケーション

現地採用をされる際の基準はどういったものなのでしょうか?

技術的な部分とマインド的な部分に分かれます。技術的な部分は持ち帰りの試験とその場でやる試験の2つをやりました。最初は持ち帰りの試験で見ていましたが、ある時におかしいと思ってGoogleで検索してみると、全く同じプログラムをコピーしたものとかもあったんです。なので、持ち帰りの試験は半分ぐらいしか見ていませんでした。残りは基本的に会社に来て、やってもらいましたね。

マインド面では、ロジカルに考えられるかの試験と面接を2回やっていました。面接も大変でしたね。アメリカやヨーロッパからも求人がきているので、そちらの方が給料が高いんですよね。そこで負けないように、最初は採用の会社から話がきたら必ず契約して50社集まったんですが、実際候補者を送ってくれるところは10社ぐらいでした。その10社とは毎月1回ミーティングを設けて「我々はこういう人が欲しいです」「紹介してくださった方すごく良かったです」「他からこのぐらいCVを頂いているので、御社からはこういう人が欲しいです」というような話をしていましたね。

そうなんですね。その採用会社は現地のエージェントだったのですか?

3社はグローバルに展開されている日本のHRの企業さんで、1社が現地の日系企業。そして残り6社がベトナムの会社でした。彼らと定期的なミーティングを設けて、現地のメンバーと仲良くなっておくと、より良い人材を紹介してくれたりするんです。私たちは月に何十人も雇うわけでは無かったので、そういう一人一人が嬉しかったですね。やっぱり人が命だと思います。

ベトナム・インド・タイの3拠点で活動されていた

インド

インド新聞を拝見したのですが、その時のお話も伺いたいです!

これはベトナムに進出する前の話です。大学時代に出会ったインド人の友人がいまして、彼はお爺さんが切手になっているほどのヨガの大家出身なのですが、新宿生まれ新宿育ちでベンガル語・英語・日本語がペラペラでした。彼が日本とインドの架け橋になりたいと言っていたので、インドに駐在している人やインドに進出したいと思っている人向けに、インドで流れている主要記事を日本語に翻訳していたのが「インド新聞」です。

ベトナムでもインドでも活動されていたんですね!

実は一時的にタイにもオフィスがあって、コアの部分を考えるマーケティングオフィスとして設けていました。創業時からずっと一緒にやっている会社があって、その時の担当者がバンコクに赴任になったので、タイにもオフィスを設けたんです。今はもうオフィスを引き払っています。

ただ、無計画に国の外へ進出するのはよく考えた方が良いです。そこの文化に溶け込むのは大変だったので、小規模なまま外へ出て行くよりも、一つの地域で固めてから外へ出た方が良いと思います。相当優秀なマネージャーがいない限り、固まっていないまま外へ出ない方が良いでしょう。逆に、現地で腰を据えコアを固めて進める体制が作れるなら、チャンスでしょう。

タイ

今まで色んな国で様々なエンジニアを見てこられた中で、海外のエンジニアをマネジメントする時に大切にしてきたポイントを教えてください!

マーケティングを含むような現地のところと、純粋なシステム開発では違うと思いますが、今回は後者の目線でお答えします。それはマネジメントする側もある程度の技術力を持っていることです。向こうはプロとして外資系企業で働いているという意識があるので、マネージャーが技術のことを全く知らないと、言うことを聞いてくれずになめられます。非常に高いレベルの技術力である必要はありませんが、基本的な技術をしっかり抑えていて論理を自分の中で消化し、系統立てて他者に説明できるというレベルで良いと思います。

インターネットがどう動いていて、どういう風に設計していくのかが分かっている必要があります。プログラムを動かすのとプロダクトとして動かすのは全然違っていて、前者は動けば良いですが、後者は動かなかった時のことまで考えなければいけません。その辺りを分かっていて、基本技術をしっかり理解している人が必要だと思います。

あと、色んなことに負けない、投げ捨てないことも大事です(笑)

今後のオフショア開発で注目されそうな分野は何でしょうか?

今後はAIとBIがオフショア開発でも重要な領域になってくるでしょう。インターネットのみならずモノからもデータが集まるようになった昨今、日々ビックデータとして溜まってきています。その溜まった情報を分析するAI、可視化して企業の意思決定に持っていくBIの2つの領域はベトナムとも相性が良いです。日本の会社がどういうことを求めているのかが固まれば、あとはベトナムの開発拠点がどういうデータを集めていくかという領域になります。こういった技術のマネジメントは需要がどんどん大きくなると思いますし、弊社もその全体の生態系を一気通貫で任せてもらえるようにしていこうと考えています。

海外へ活躍の場を広げていきたい企業へ

ベトナム

海外のエンジニアをマネジメントできる日本人エンジニアを育てようとしている企業に向けて、メッセージをお願いします!

このご時世に言うべきでは無いかもしれませんが、現地に行ってみることですね。彼らが何を考えているのかを知ることは凄く重要だと思います。例えば、1年間同じプロジェクトでやってきたのと、1週間現地のチームとワイワイやるのとでは、同じぐらい濃い連帯感が出ます。この連帯感というのは、お互いがどういう感覚で仕事をしているか分かるという意味です。相手が物事をどう捉え、仕様書を書いた時にどういう風に書けば分かってくれそうかという理解に繋がります。

お客様にも、自社のビジネスの背景、このシステムがどういう位置付けなのか、その上でここをやってほしい等を直接話してみて欲しいです。数ヶ月続くような案件であれば、その価値はあります。メンバーも〇〇さんのためにやる!と気持ちも変わってきます。なので、自分で直接行ってみるというのは、この前まではアリでした(笑)。このあたりをしっかり詰めていけるなら、時勢に合わせてリモートも組み合わせていけるでしょう。むしろ、リモートワークで培ったやり方を、拡大していくチャンスであると感じられます。

企業が考えるべきことは、時間が欲しいのか、費用を削りたいのか、リソースが欲しいのかだと思います。その上で、すぐに欲しいのであれば、安さは捨てた方が良いと思いますね。最初から日本と同じように緩い仕様書を渡してサクッと理解し、すぐ作るところまで教育されていてマネジメントされているところは当然高いので。そのリソースを潤沢に使うために、こちらのマネジメント層を厚くすることもできますが、コストを確保したいのであれば時間は必要です。どこに力点を置くのかは非常に重要です。

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