日本ではエンジニアが圧倒的に不足しており、オフショア開発などで海外のエンジニアを活用する企業が増えています。IT人材需給に関する調査報告書(2019)によれば、2030年までIT人材供給予想量は増加傾向にあるものの、需要もまた伸びており、供給が追いつかない状態が2030年まで続くとされています。経済産業省の調査(2019年3月)によると、2030年にはIT人材の不足数が最大で約79万人になるという試算が出ています。
関連資料:
平成 30 年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(出典:みずほ情報総研株式会社 IT 人材需給に関する調査報告書)
しかし、海外のエンジニアとコミュニケーションをとりながら仕事をしていく上で、言語や文化の違いが壁となり、充分に活用できないことを問題視している企業がいることも事実です。
今回はドイツでMBA修了後に教育系スタートアップでCTO及び技術顧問を経験し、現在はスペインの医療系スタートアップで技術管理を担当されている佐藤さんに、海外のエンジニアと協働する上での失敗や文化の違い、今後海外進出していく企業に向けてのメッセージをお送りします。
佐藤 隆之 氏|QMENTA
東京大学工学系研究科にて、システム量子工学を専攻し、コンピュータシミュレーション及び脳科学の研究を行う。卒業後、日本IBMへ入社しソフトウェア開発者、ITコンサルタントとして従事。2014年、スペインにあるESADEビジネススクールにてMBAを修了。2014年より、ドイツ(ベルリン)の教育系スタートアップにてCTO及び技術顧問を担当。翌年よりスペイン(バルセロナ)の医療系スタートアップに技術管理担当(Head of Engineering)として参画。現在はプロジェクト管理や経営企画を担当する。
海外の方をマネジメントするマインド
6年以上ヨーロッパで働かれている佐藤さんが、海外の方をマネジメントしていく上で意識していたことは何でしょうか?
私が働く上で意識していたのは「フラットな関係を築くこと」です。
日本では、上司と部下、顧客とサービス提供者など上下関係をはっきりさせる文化があると思います。その方が楽な場合もありますが、片方が上から目線になってしまいがちです。
対して、ヨーロッパではフラットな関係性をとってきます。頭ごなしに言っても、部下のほうが強気に出てきたり、部下が怒ってしまい上司がなだめながら同じ方向性を向いてもらうということもよくあるんです(笑)
日本とは全く違う文化ですね(笑) そういった部下と話をする上で何か重視されていたことはありますか?
フィードバックをする時にまずは多く褒めることです。日本だと、むしろネガティブなフィードバックからしていく記憶がありますが、ヨーロッパでそれをやると逆に反発されてしまうのです。
何か改善して欲しいことがあれば、まず9割は普段の良いところや感謝を伝えた後に、最後1割だけ「ここを直してくれるともっと良いかな」というフィードバックをしています。
海外と日本の考え方の違い「合理的」
文化や言語も違うメンバーをマネジメントする上で、苦労したことはありますか?
苦労したことと言えば、ヨーロッパの人々が持つ合理的すぎる文化です。日本人はルールを重視する一方で、ヨーロッパの人々は合理性を重視する傾向があります。
例えば、信号機のある道路を渡ろうとした時に、日本人は信号を見て赤か青かで渡る渡らないという判断をすると思います。しかし、ヨーロッパでは車がいるかいないかで判断し、信号が赤だろうが青だろうが車がいなければ渡ります。
日本人はルールに縛られて、合理性に欠ける判断をしてしまうこともあると思います。その一方で、ヨーロッパの人々は「今はこうするべきだから、ルールは後で変えればよい」という合理的な考え方が仕事をする上でも表れていました。
そういった文化の違いが壁となり、苦労したご経験はありますか?
現在携わっている医療系システムは、政府の認可を得ないと売れないものがあり、そのために申請書類を揃えて、期限内に提出する必要があります。その際に、メンバーから「なぜ締め切りを守る必要があるのですか?」と聞かれたことがあります。
日本では考えられないような質問ですが、全てを理解してもらえるまで明示的に説明する必要がありました。そういった以心伝心ができなくて、苦労しましたね。
海外と日本のエンジニアキャリアの「違い」とは
海外のメンバーと、キャリアについて1on1で話すことはありましたか?
そこまで多くはないですね。日本ではジョブ型雇用が流行っていますが、ヨーロッパでは既にジョブ型が当たり前です。エンジニアであれば、バックエンドエンジニアやフロントエンドエンジニアなどの特定されたキャリアの中でスキルアップをしていき、転職をしながらキャリアアップしていくという考え方を持っています。そういった意味でキャリア観が違いますね。
そういった海外のメンバーをマネジメントしていく上で、彼らからはどういうニーズがありましたか?
戦略をはっきりさせて、仕事の優先順位を決めることです。
日本では残業をしてまで締め切りを守るために働くことがあると思うのですが、ヨーロッパの人々は残業をしません。
決められた時間で成果を上げるには、優先順位を決めなければいけません。上司が仕事の優先順位を決めておかないと、部下から突き上げられることもあります。
空気を読む文化がないので、こういった優先順位なども明示する必要があります。
言語による「概念」の違い
海外のエンジニアをマネジメントしていく上で、他に重視していた点はありますか?
物事を説明する順序が違ったことですね。
私は全体→具体の順で説明していく方が分かりやすいと思い、開発プロセスでも「設計して、開発して、テストして、リリースします」といった大まかな図を説明してから「設計の時はこういう書類が必要で、開発の時はこういう作業が必要で」という説明をしていました。
しかし、それが全然通じなかったことがあります。「こんな大きい図を見せられても分からない」と言われ、真っ白なホワイトボードに「最初にこれをやって、第二にこれをやって」と一個一個積み上げていく形で具体→全体へと説明し理解してもらえました。
この考え方の違いは言語にもよく表れています。
例えば、日本語では「2021年5月10日」のように大きい概念から順に並べていきますが、ヨーロッパの言語(例えば英語)では「10 May, 2021」のように小さい概念から並べていきます。他にも住所や分数の表現方法も、日本語は全体から具体へという流れですが、ヨーロッパの言語では具体から全体へという真逆の考え方をしているんです。
言葉は通じているが、言葉の先の「物事の構造を考えるやり方」が違うため、相手に理解してもらうためには、具体的なところから全体的な方に話を持っていく様にしています。
リモートワークにおけるコミュニケーションの仕方
現在リモートワークをされている中で、意識していることはありますか?
リモートになると、雑談が少なくなり、感情的な結びつきが難しいと思います。
私たちのアジャイル開発では、Daily Standupといって、毎日同じ時間にみんなでコミュニケーションをとる機会が設けられています。そこでは、今日やること・昨日やったこと・困っていることをチームで顔を合わせながら共有しています。
仕事のこと以外に雑談をすることもありますし、私たちのメンバーの中には瞑想の専門家がいたため、みんなで一緒に瞑想をしたこともありましたね(笑)
海外キャリアを目指す方へ
最後に、海外へ活躍の幅を広げていきたい企業へメッセージをお願いします
MBAで勉強していくとグローバルビジネスの話になり、近年インターナショナルからグローバルにやり方が変わっているという話を頻繁にしています。
インターナショナルの時代は、ナショナル(国)がインター(またがる)であり、日本の企業がアメリカで物を売る、アメリカの企業が日本で支社を作るなどの2国間でのやりとりが多かったです。
対してグローバルは、多数対多数の関係になっていて、企業がどこでモノを作っても良いし、売っても良いわけです。
例えば、ネットフリックスでは、日本で作られたアニメが世界中何十ヵ国で見ることができる様になり、世界中で作られた様々な映画を日本で見ることができます。
海外へ進出していきたい企業は、世界全体で最適化を考え、どこで作りどこで売るのかを柔軟に考えていく必要があります。テレワークが増えたことでよりそういった傾向が強くなり、これからのトレンドになるのではないかと思います。
関連記事:海外ベンチャー中間管理職のブログ
————————————————————————————————————————
ACTIONでは教育型オフショア開発プログラム(フルリモート)を提供しています。
海外で活躍しているCTOがメンターシップしながらラボ型のオフショア開発をします。
自社のエンジニアを海外でも活躍できるように育てます。
————————————————————————————————————————