ヨーロッパのITアウトソーシング先として注目が集まっている国のひとつがウクライナです。
関連資料:
知られざるウクライナIT産業のポテンシャル (出典:JETRO 地域・分析レポート)
ウクライナIT市場はアウトソーシングを中心に年々成長し続けています。首都キエフを中心として全国にITクラスターを抱えています。その市場を支えるのは豊富で優秀な人材と人件費の安さです。西欧諸国を含めた周辺諸国と比較してもエンジニアリングの多くの教育機関があります。(出典:JETRO 地域・分析レポート)
今回は外資系金融のIT開発に従事した後独立し、現在はウクライナでAgo-ra ITコンサルティング代表を務める柴田さんから、ウクライナの現状、他国籍チームをマネジメントする際のポイントなどのお話を伺いました。
柴田裕史 氏 | Ago-ra IT Consulting CEO
Ago-ra ITコンサルティング代表、ITウクライナ協会日本市場担当ディレクター、その他複数日系、ウクライナ系企業の顧問、代表を務める。米国、豪州の大学を卒業後、欧米の外資系金融3社でブリッジSE、社内コンサル、アルゴリズム・トレーディング開発に従事。2002年の学生時代に最初のインターネット・スタートアップを起業。2016年より欧州(ドイツ・ポーランド)へ拠点を移しITコンサルタント業務に従事。世界8か国に在住経験あり。現在ウクライナの首都キエフにて日本企業向けオフショア開発コンサル業および現地IT企業の日本向けマーケティングを支援。
海外で教育を受け、金融業界の開発に従事した後、独立
—— いつ頃から海外に関わり始めましたか?
高校までは日本で、その後アメリカやオーストラリアに留学しています。大学はアメリカで経済学を、大学院はシドニーでコンピューターサイエンスを学びました。
—— これまでのキャリアについて教えてください。
卒業後に東京へ帰り、まずは外資系の証券会社がクライアントのベンダーに就職して、大手外資金融会社ののフロントオフィスにいるトレーダーが使っているデリバティブ等を扱うシステムを開発していました。その後、米国系資産運用会社のテクノロジー部に転職をしてトレーディングシステムの開発を担当し、その後にイギリス系の証券会社でも仕事をしました。外資系の証券会社や銀行、資産運用の会社は基本的に開発がオフショアで、日本のビジネスサイドの要求を集めて、オフショアで開発をした後に、日本で実装・テストするという業務を10年近くやっていました。
—— 起業をすることになったきっかけは何でしたか。
大学留学時代から起業はしていまして、日本のソフトウェア会社が海外に売るために英語化する際、ソフトウェアをローカリゼーションするという事業をやっていました。2002-2003年に立ち上げて本業と同時進行でずっとやっていましたが、2015-2016年くらいに独立を決めました。
8カ国に移住、現在はウクライナに在住
—— 多くの国での移住経験をお持ちなんですよね?
独立した時、拠点を固定しなくて良い仕事だったので、わざわざ物価の高い東京で働く必要もないと思いました。今いるウクライナは8カ国目。最初は3年のビザをとって友達がいたドイツのベルリンで、ローカリゼーションとITコンサルタントの仕事をしていました。その後アメリカ、イギリス、オーストラリア、ドイツ、ポーランド、ギリシャ、ウクライナ、日本を含めて8カ国で働いた経験があります。
—— ウクライナに拠点をおいた理由とウクライナの現状についてお聞かせください。
2016年頃、欧州に移住をして、最適なオフショア先を探していました。その中でウクライナが欧米企業のオフショア先になっていることを知りまして、実際に来てみるとエンジニアの技術力も高く、衝撃を受けました。2018年にウクライナに来た時、日本からはオフショア開発先として認知されていませんでしたが、私がNewsweekなどで記事を書いて情報発信をしたこともあり、2019年には楽天の三木谷社長がウクライナへ来られました。元々楽天はヨーロッパで広く使われるSNSのViberを買収していて、大規模な開発センターをウクライナに設けていました。そこから楽天がViberだけではなく、他のサービスの開発もウクライナでやるために首都キエフにも拠点を作ることになり、2019年にそれが話題になりました。
それに加えて、ウクライナでは2019年に大統領選挙がありました。その時からデジタル立国として舵を切るためにも、デジタル変革省を作って閣僚として元IT業界の人員を揃えたことで、ウクライナのデジタル化が大きく進みました。そこで日本企業をどんどん誘致していこうという流れになりました。例えば、2021年3月末に日立製作所がウクライナ最大級のIT企業である米グローバルロジックの買収を発表したことは大きな話題になりましたね。最近は日本企業からのラブコールが増え、日本政府も強力にそれを後押ししています。
会社員時代からアジアやヨーロッパのエンジニアと協働
—— 海外人材のマネジメント経験について教えてください。
ずっと多国籍で英語を使って仕事をしていますね。金融機関で働いていた時は、インド、シンガポール、ルーマニアとやりとりをしていましたし、日本にいた時もテクノロジー部は基本外国人で、自分は数少ない日本人でした。なので東京にいながら多国籍のチームでプロジェクトマネージャーとして働いていました。
—— 多国籍チームをマネジメントする際、心がけていることはありますか。
例えばインドだと、彼らの中では彼らの独自のルールがあります。外国人には見えにくいですが、一緒に仕事をしていくとだんだん見えてくるものです。
その中で、私が仕事をしやすかったのは東欧の方々ですね。1人で全部やってしまうような人が多くて、1人で5人分くらいの仕事をする上にクオリティが高いです。ウクライナの人は責任感が強くて最後までやり遂げる人が多い印象があります。また、指示待ちの人が少なくて、ある程度自分でやってくれるんです。それに要件を投げて、どうするべきかを言わなくても向こうが解決策を提示してくれます。
エンジニアもクライアントも相手にするのはアメリカや西ヨーロッパであって、IT先進国を相手にしているのですが、AR/VR、ブロックチェーンなどの最先端技術はウクライナで作っていますし、多く理数系の人材が揃っています。歴史をみると、核兵器や大陸間弾道ミサイルやソユーズロケットなどソ連の技術はウクライナが担っていたこともあり、ソ連崩壊後にその人達が会社を作って欧米のソフトウェア開発を受注し始めたという過去があります。それを経てウクライナは東欧のIT大国と呼ばれるようになったんです。
ウクライナの現状とアジアの課題
—— ウクライナのITの現状を教えてください!
ウクライナ発のものは世界中の人に使われています。例えばWhatsAppやPayPalの創業者はウクライナ人ですし、GrammarlyやホームセキュリティのRingというサービスもウクライナ発。Snapchatにある、顔にフィルターかける機能もウクライナの企業をスナップチャットが買収したことで成り立っています。アメリカの企業はウクライナの企業・技術をどんどん買っていますし、中国や韓国の企業も続々とウクライナに行っていて、日本は遅れて進出してきています。これから大切になるのはソフトウェアで、ソフトウェアを制する国が21世紀を制すると思っています。ウクライナはソフトウェアに関しては世界一流の力をもっています。
—— ウクライナで仕事をする上でマネジメント面での課題はありますか?
ウクライナのエンジニアの特徴として、いくら技術力が高くても、プロジェクト自体がつまらなかったり、物足りなかったりすると自分のキャリアに役に立たないということでやめてしまうことがあります。彼らは長いキャリアパスで見ていて、今やっている仕事が将来どう役に立つのかを真剣に考えているからです。そこで、彼らのキャリアパスを考えて仕事を与えることが必要になってきます。グローバルスタンダードのプロジェクトの進め方をしないと、クライアントがウクライナのエンジニアになめられてしまいます。
また、ウクライナはEU非加盟国なので、当然EUの労働法に従う必要がありません。EU内の定時に帰り、休日には働かないという精神を持っていないため、必要に応じて残業などもできる環境にあります。
—— アジアの課題に対してどうお考えですか
日本との関わりの中でアジアが魅力的になるかどうかは分かりません。地理的な近さや文化的な近さはあると思いますけれども。日本はものづくりは世界最先端ですが、それはハードウェアの話で、日系企業のITのレベルは高くありません。ITのほとんどの技術はシリコンバレー発祥のものですし、日本で日本人がつくるソフトウェアは日本で日本人が使って終わってしまう場合が多くあります。
また、日本人が日本語で押し通そうとするため、翻訳や通訳を通して誤訳に誤訳を重ねてしまい、完成品がバグだらけであったり、仕様書と違うものができあがったりしている現状もあると思います。
最後に
—— 海外に進出していく企業に向けてメッセージをお願いします!
ウクライナと聞いたときに心理的・距離的に敬遠する傾向があるかもしれません。しかし、コロナ禍でリモートワークが主流になり、オフショア開発とオンショア開発の境目は曖昧になりました。世界中どこで開発しても同じという感じに認識していただけたらと思いますし、現在はまだブルーオーシャンのウクライナにぜひ来ていただけたらと思います。
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