海外でのエンジニアマネジメントの基本は、リスペクトを忘れないこと【株式会社フォアー 藤田 伸一 氏】

藤田伸一 氏 | 株式会社フォアー

早稲田大学第一文学部哲学専修卒業。エストニアのデータ連携基盤、ID基盤を拡張して民間に展開するスタートアップの元常務執行役員COO/CTO副社長。ベネッセコーポレーションでは、システム開発部 部門長としてデジタル教育サービスの開発をリードした。株式会社エボラブルアジア(現エアトリ)元取締役 CTO。エボラブルアジアでは、ベトナム法人の体制構築やオフショア開発の事業推進活動などに従事し、現在のベトナムオフショア開発ビジネスの潮流を作り上げた。​

Twitter:@poetd2

はじめに、現在のお仕事について教えてください!

現在は株式会社フォアーでCOO兼CTOを担当しております。弊社は「HAKOBIYA」という、海外旅行者の手荷物の空きスペースを活用して「海外製品が欲しい現地の人」と「その国への旅行者」をつなげるアプリの開発と運営をしてきました。例えば、日本からベトナムへ出張に行く人と日本の化粧品やアニメグッズが欲しいベトナム人をマッチングさせ、代わりに買ってきてもらうというものです。

また、ベトナムでの未来の流行を予測する流行ポテンシャルアルゴリズムを開発しまして、次期アプリではそのアルゴリズムも組み込む予定です。現在はこの2つのサービスを展開しています。

藤田さんが取締役CTOを務める「株式会社フォアー」のホームページはこちらから

小学生からプログラミングを始め、SIer、米国IT企業などを経てベトナムへ

藤田さんがエンジニアになられたキッカケは何でしたか?

小学生の頃、父親が私にコンピュータを買い与えてくれまして、プログラミングを始めました。大学卒業後も新卒でプログラマーになり、その後も様々な会社を経てきましたが基本的には開発やSEをやっていましたね。10年ほど前からは色んなスタートアップでCTOを担当しています。

コミュニケーション

海外にはいつ頃から関わりを持たれたのでしょうか?

大学卒業後は新卒でSIerに入社しまして、2社目は米国のインターネットプロバイダであったAOL(アメリカオンライン)の日本法人に転職し、技術部門のディレクターを務めていました。当時は、本国アメリカやアイルランドのダブリン、フランスチームとのやりとりなどをしていて、海外出張もよくしていましたし、海外チームと一緒に仕事をする機会がたくさんありました。

その後、2008年にデジパというweb制作会社の取締役になり、ベトナムでオフショア開発拠点を立ち上げようと動き出しまして、同年から6年ほどベトナムに駐在したのが転機となりました。また、前々職ではエストニアとのハイブリッド企業で日本法人のCTOもやっていたので、グローバルマネジメントはどこでもできるかなと思っています。

エンジニアに対してリスペクトの気持ちを持つことが基本

海外でのエンジニアマネジメントで大切にすべきポイントはありますか?

基本的にはエンジニアに対してのリスペクトを持つことだと思います。わたしは日本人とベトナム人で技術的なレベルは変わりがないと思っていて、給料の差は日本語が話せるから底上げされているだけなので、同じエンジニアとして彼ら彼女らにリスペクトの気持ちを持つことは重要だと思います。

エンジニア

日本とベトナムで技術的なレベルは変わらないんですね。

2000年代初頭から中国でオフショア開発が始まって、当時は日本企業が業務系システムを委託していました。ただ、業務系の開発は仕様に書かれていない行間を読まないといけない開発が多かったことに加え、ウォーターフォール型であるのにも関わらず、実装段階やテスト段階で仕様が変わることもよくあり、技術的な問題というよりはそのやり方に慣れていなかったので、日本からは品質が悪いと言われていました。

ただiPhoneなどのスマートフォンが発売され、スマートフォンやwebのアプリ開発でフレームワークが整備されてきたことで、英語さえ読めれば誰でもハイレベルの開発ができるようになりました。それに業務系と違ってソーシャルゲームなどは綺麗で分かりやすいロジックだったので、そのあたりからオフショア開発がうまくいくようになったんだと考えています。

海外でのエンジニアマネジメントで苦労したことはありましたか?

最初に受託で受けた時には納品したシステムの品質はかなり低かったと思います。その理由は単純に現地で開発者がテストをあまりしなかったからなんです。日本の開発者は自分が作ったものに関してテストまで丁寧に責任を持ってやるんですけど、当時のベトナムのエンジニアは開発が仕事で、テストはテスターの仕事だと考えている人が多かったです。それならばと、私は開発者とテスターを分けて進めたことでうまくいきました。

ベトナムほどマネジメント手法の教え甲斐がある国は少ない

藤田さんはマネジメントをどのように学ばれたのでしょうか?

ピープルマネジメントは実地で学んだ部分が大きいです。ただ、20代の後半でSEから管理職に上がった時が、ちょうどプロジェクトマネジメントがPMPやPIMBOKという形式で体系化されてきた頃で、それを学ぶのは面白かったです。その後は、マネジメントに関してもどうやったら体系化できるのだろうと考えるようになりました。

ベトナム

藤田さんは他のメンバーの方々にマネジメントをどのように教えているのでしょうか?

私はフォーマットに落とし込むのが好きなので、ピープルマネジメントであればゴール設定をしてそのゴールがどれくらい達成できているのかを考えたり、教科書的にはMBOなどを導入しています。その人のバリューを尊重して、明文化することを重要視しています。

そこでもリスペクトを持って教えることが大事なのですね。

これは私の推測ですが、ベトナムでは1955-75年に起きたベトナム戦争の影響もあって、他国では管理職になっているべき年代が人材不足ということがあります。そしてベトナム戦争直後にベビーブームが起きたので、若いエンジニアにマネジメントを教えられる管理職の層が少ないんです。なので、ベトナムの若い層にマネジメント手法を教えると凄く吸収してくれますし、忠実に守ってくれます。日本よりも伸び代があると思いますし、こんなに教え甲斐のある国は少ないと思いますね。

現在では主流になったラボ型開発をベトナムで初めて導入

発注側の企業様とは、どのようにコミュニケーションをとっていますか?

元々オフショア開発ではコミュニケーションの不透明さが問題になることが往々にしてありました。物理的な距離と言語の違いがあるため、開発拠点では遅延が起きても隠すことができてしまい、発注側は見えない状態で遅延が起きるのでは不信感が高まりますよね。

そこで発想を転換して、直接お客様に開発拠点に来ていただき、現場を見て介入しても良いという形態にしたことで非常にうまくいきました。発注先からは海外の開発拠点として考えてもらえるような今流行の「ラボ型開発」を大々的に始めたのは我々の会社からだったと思います。

マネジメント

最近はオンラインでのマネジメントが主流ですが、やはり一度現場に来ると印象は変わりますか?

全然変わりますね。開発拠点に行って、このメンバーが開発しているのかと顔を見るだけでもプロジェクトの雰囲気は大きく変わります。なので、大きな開発の時にはお客様にも発注前に現場へ来てもらうことを望んでいました。

ベトナムでのオフショア開発市場の動向を教えてください!

最近はバラエティに富んでいますね。昔は総合型(なんでも開発します型)が多かったのですが、今はAIやデータサイエンスなど分野特化型もありますので、発注側からしても選択肢が多く委託しやすくなってきていると思います。

海外でのエンジニアマネジメントをする上で必要なマインドセットを教えてください!

基本的にエンジニアは技術が好きでその職業に就いているので、そこは尊重してあげるべきだと思います。もちろんエンジニアにとって給料は大事ですが、それ以上に面白いことがやれているかということを常に考えることが大事だと思います。

2009年にバイタリフィアジアで社長をやっていた時、これからスマートフォン開発とソーシャルゲーム開発の2つのブームが来ると考えていました。当時60-70人だったエンジニアにどちらがやりたいか聞いたところ、多数決でスマートフォン開発がやりたいと決まりました。当時はどちらを選んでも正解だとは思いましたが、何をやりたいかの方向性をエンジニアに委ねたことで、会社が一丸となり生産性も上がりました。

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最後に

東南アジア

今後の展望を伺いたいです!

これまでいくつかの会社を経てきて、所属していた会社が上場もしたこともあるのですが、今後は日本発のメガ・グローバル企業を作りたいなと考えています。日本の新興企業を見ていても海外の壁って硬いんだなーと思っていて、弊社のトラベルコマースとトレンドエンジンは言葉を超えるはずですし、これまでに学んだ知恵と経験を活かして海外にグローバルに打って出たいというのが今の展望であり野望です。

今後、海外で活躍したいと考えている企業やエンジニアをメッセージをお願いします!

企業様にとってもエンジニアの方々にとっても、現在はオフショア開発を始めるにあたって歴史上空前と言っていいぐらいの良い時期だと思っています。コロナでリモートワークが当たり前になり、どこでも働ける環境になったことで、日本企業ではよくある長い打ち合わせや常駐がなくなり、オフィスすら構えなくなってきました。これを期にぜひ海外でのオフショア開発にトライしていただきたいなと思います。

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