プロジェクトマネジメントのコツは「KPIで縛ること」~海外でのシステム開発プロジェクトマネジメント~【前Waters Corporation 高井雅彦氏】

近年、DXやAI、SaaSの需要もあり、日本のみならず世界各国でIT技術者が増加しています。92カ国をデータで見るITエンジニアレポートvol.1(2020)によると、世界のIT技術者は2,136万人を超え、そのうち38%の811万人はアジア・オセアニア地域で就業しているようです。また、世界のIT技術者数が年間3.35%の伸び率で増加している中、アジア・オセアニア地域は4.04%と世界平均を上回る増加率です。

IT
関連資料:
【ヒューマンリソシア調査】 [独自推計]世界のIT技術者は約2,137万人、年3.35%増(出典:ヒューマンリソーシア株式会社 92ヶ国をデータで見るITエンジニアレポートvol.1

中国とインドのIT技術者が増加している中で、注目されているのがシンガポールです。92ヶ国をデータでみるITエンジニアレポートvol.2(2020)によると、世界92ヶ国中、IT技術者の平均給与が高い国として、シンガポールが51,929USDで10位にランクインし、アジアではトップの水準となりました。日本は42,464USDで18位、香港が41,287USDで20位にランクインしています。

エンジニア
関連資料:
【ヒューマンリソシア調査】 [独自レポート]世界のIT技術者の給与ランキング、 日本は92カ国中18位、伸び率は年5.9%増で20位(出典:ヒューマンリソシア株式会社 92カ国をデータでみるITエンジニアレポートvol.2

世界金融の重要拠点、世界有数の国際経済都市でもあり、優秀なエンジニアが集まるシンガポールは、IT業界においてもますますプレゼンスを高めてくると考えます。

今回は、金融業界出身で、シンガポールメンバーのシステム開発PMをご経験され、現在はWaters Corporationでアジアのトップとしてご活躍されている高井さんから、海外メンバーがいるプロジェクトの管理方法やグローバルな環境でのコミュニケーション方法、今後海外進出していく企業に向けてのメッセージをお送りします。

高井 雅彦 氏 | 前Waters Corporation
一橋大学卒業後、国内メガバンクへ入社。ベンチャー企業の投融資及び海外システム系のプロジェクト管理を中心に国内外で21年間キャリアを積み、現在所属する会社の日本法人へ転職。
7年半に及び管理部門(ファイナンス&アドミストレーション)を統括。
現在は、NY上場の分析機械メーカーにてIT Global Service Delivery のアジアヘッド兼シニアマネージャーを行う

銀行員からシンガポールのITシステム開発PMに

シンガポール

一橋大学卒業後に三菱UFJ銀行に入行されてから、どの時期にITやテック系と関わりを持ち始めたのですか?

1986年に入行し、留学などを挟んで、1993年から1996年までロサンゼルス店の経理課長をやっていました。それから日本に戻った後、1999年の1000億-2000億円規模で行われた海外新システムを作るプロジェクトに経理課長の経験者として呼ばれたのがきっかけです。当時ITの経験は無かったんですが、2007年に銀行を去るまで海外システム関連の業務に携わっていました。

シンガポールでのご経験も伺いたいです!

2006年に三菱東京銀行とUFJ銀行の合併があり、システム統合のプロジェクトマネージャー(以下PM)としてシンガポールに派遣されたのが最初です。銀行にとって、トレーディングが盛んなシンガポールは4大拠点(ロンドン、ニューヨーク、香港、シンガポール)の1つと言われている大事な場所であり、その時は出張ベースで、国際情報事務システム室と兼務でアジア法人業務部でシステム統合の対応をしていました。

1年後に帰国しようとした矢先、現地のイーバンキングシステムの開発が遅れていることがわかり、そこのPMを引き継ぎ。現地のイーバンキングシステムをリリースする時まで、また1年半ほどシンガポールにいました。

その後もシンガポールに海外新システムを導入するので、あと3年ほどシンガポールに居てくださいというお話を頂いたのですが、単身赴任で行っていたこともあり、それをきっかけに銀行を辞めました。

日本とは異なり流動性が高いシンガポールの労働市場

オフショア

シンガポールで働かれていた時のメンバーはいかがでしたか?

前半のシステム統合プロジェクトには日本人メンバーがいましたが、後半のプロジェクトでは日本から派遣された日本人は私一人でしたね。イーバンキングシステムは日系企業に売っていたので、ユーザー企業の方々は日本人が多かったり、日本の銀行なので私のマネージャーは日本人でしたが、部下はローカルスタッフや中国から来たメンバーでした。

そうだったんですね。ローカルスタッフとコミュニケーションをとる時、どういう点で苦労されましたか?

前提として、シンガポールは労働市場の流動性が高いです。人はそれぞれのキャリアを持っているので辞めていくものですし、当時の銀行は合併して人が余っていたので、管理部門もリトレンチ(人をどんどん切っていく)していました。派遣社員や契約社員、ベンダー等も入っていて、国籍もバラバラ。元々多様性ある環境で、かつ人も多様に動いていくという前提でやっていかないと足元をすくわれます。

人の流動性が高い市場において、特に工夫をしていたことはりますか?

その人の市場価値を理解するということですね。その人の市場価値に対して低すぎる評価をすると人は辞めてしまうので、この人はどのくらいの市場価値があるのだろう、他の仕事に移ったらどうかなと意識することが大事です。

海外メンバーがいるプロジェクト管理方法

ビジネス

事前に頂いたプロジェクト管理のポイントの1つに「契約書やKPIで縛ること」とありましたが、詳しく伺いたいです!

私が最初にPMになった時、そのプロジェクトがアメリカのベンダーでインド開発だったのですが、開発が遅れていたんです。向こうは色んな理屈を言ってきたので、契約書の中で開発が遅れた場合のペナルティ条項を入れました。多少費用は超えても、開発が遅れればペナルティ、要件定義が変わったらベットする等を明確に入れたんです。

逆に、フェーズごとに開発が予定通り終われば、リワード(報酬)を与えました。ある時、KPIを達成してリワードを与えた時、その開発チームと成果が先方の社内報に載りまして、それによってモチベーションが上がったこともありました。開発チームがリワードを貰えれば、向こうのPMも評価されるので、KPIを明確にして契約書で縛ることは重要ですね。

2点目の「イシューとリスクを明確にすること」について、教えてください!

イシューとリスクを明確にしておき、みんなで共有することが大事です。PMがイシューとリスクを認識して、メンバーにも上の層にも定期的に共有することに加え、ベンダーの上の方までメールで共有するべきですね。

そして、PMのプロジェクト管理において、リスクになっていないものがいきなりイシューになってはいけません。イシューになりそうなものは、リスクとして事前に報告しておく必要があります。イシューとリスクを部署毎にまとめて、優先順位をつけて、上に報告しておくことは非常に重要です。

シンガポールに居た時は、プロジェクトにベンダーがたくさん入っていたこともあり、イシューとリスクを週次のミーティングでマネージャーに共有し、月次のミーティングで上層部に共有しました。そして、ベンダー側の上層部にも共有をした上で、もし遅れたらペナルティがあることを念押ししていましたね。海外の方が縦割り組織なので、上に言っておくと社内ポリティクスが働いて、向こうから手を打って中で管理してくれます。

そして、誰がオーナーでプロジェクトを管理するのかを明確にしておくことは、責任を曖昧にしないためにも大事です。

マネジメント

3点目の「人は辞める前提」というポイントについて、先ほどシンガポールは流動性が高い市場だというお話もありましたが、外国人を管理する時にはどのような点に気をつけていらっしゃいますか?

(日本人を管理する場合よりも)外国人を管理する場合の方が、人事管理が大事だと思います。目標設定・管理をして、ダメならダメとしっかり言うことです。日本の人事面接は曖昧なまま終わる場合が多いと思うのですが、海外では人事面接を受ける側がエビデンスをきちんと用意してくる可能性もあるので、ダメならダメで明確なエビデンスを人事や上司も用意しておかなければいけないんです。

そして、給与とボーナスもその人の市場価値とその市場の動向に合わせて出すことです。外国人を雇う時には、国毎に平均昇給率や労働市場の動向などを把握しておかないと、それに見合わない額の給与では辞められてしまいますからね。

ミシガン大学院でビジネスを学ばれたご経歴もありますが、そういった経験がどう部下へのマネジメントに活きているのでしょうか?

もちろん知識としては役立っていることはあります。その上で、同じ意味の言葉でも各国毎に良い方を意識していますね。例えば、アメリカ人にはアメリカの流行を踏まえて言葉を選ぶべきで、そのために各国の最新の流行を把握しておくべきだと感じています。そして、言葉には文化があるので、その国の言葉は分かっておいた方が良いです。例えば、中国人は結果主義なので、価値がないと思ったらやらないこともあり、それが言葉にも出ているんです。

4点目の「情報の裏をとる」について、詳しく教えてください!

会議で出てくる情報に対して、周辺の人に裏を取ることが大事だと思いますね。その人はその人の立場で言っているので、情報が正確でない場合があります。そのような場合、その人の部下に話を聞いて、裏を取ることは重要です。

また、ベンダーを選ぶ時も同業他社の情報を聞くことが大事です。シンガポールでは、ITやイーバンキング等でインナーサークルがあり、その中に入って同業他社の情報交換をしていました。例えばイーバンキングのシステム開発というインナーサークルの中で、A社を3年で辞めてB社に行ってとグルグル人が回っていたので、中のネットワークは硬かったです。競合他社でも、その中にいれば情報が上手く入ってくるので、そういうネットワークには入った方が良いですね。

いまお話にあったインナーサークルのようなネットワークに入るコツはありますか?

こちらも情報を出すこと、ギブアンドテイクできることですね。まずはこちらから情報提供していく、それが出来ずともせめて何かあったらギブできるという期待を持たせることです。そして、キーパーソンがいたら仲良くなって、情報交換することが大事です。

グローバルな環境でのコミュニケーションについて

PM

海外の方をマネジメントする時に、大切にしているマインドセットを教えてください。

海外と国内でのマインドセットはあまり変わらないと思います。結論、ギブアンドテイクが大事ですね。また、各国やコミュニティの常識を把握しておくこともとても大事です。そして、信頼をお互い積み重ねていくことが大事だと思うので、変な人・危なそうな人・トラブルを起こしそうな人がいたら近づかないことです(笑)。

現在のお仕事では、上司がアメリカにいて、部下はシンガポールと中国にもいると伺いましたが、どのようにコミュニケーションをとっているのでしょうか?

私は現在IT部門のアジアヘッドをやっていて、他にもアメリカヘッドとヨーロッパヘッドと私の3人が同じ上司にレポートをしています。アメリカ人の上司は上の顔を伺っているなと感じていて、縦社会を実感しています。日本人って上司の悪口を言うこともあるじゃないですか(笑)、でもアメリカ人は基本的には上司の悪口は言わないですし、指示を受けた時に反論もせずにやることが多いですね。なのでアメリカ人を上司に持つと、指示が上から降りてくるという感じがします。

部下とのコミュニケーションをとるときに大切にしていることはありますか?

コロナでリモートワークということもあり、1on1で話すことが大事だと思います。何がイシューで何がリスクなのかをしっかり理解することは大切です。そして、リモートワークにおいては、ミクロに管理しすぎてもしょうがないので、細かいところよりも結果を見ています。全体で見る時は、目をつぶるところは目をつぶっていますし、何をやったのかをフォローしています。

最後に

海外で活躍したい企業に対して、何かアドバイスをお願いします!

まずは相手を理解することがとても大事です。出来ないことを責めるのは簡単ですが、自分とは常識が違うかもしれないので、相手の事情を理解することです。どういう事情で、なぜこういうことをしているのか、なぜこうなったのかを理解することが海外進出においても重要だと思います。

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