ITエンジニアは言葉が通じなくても、図でコミュニケーションがとれる ~ハノイ開発拠点でのプロジェクトマネジメント~【REGAIN DATA LAB.Co.Ltd 土屋則幸氏】

近年、日本では深刻なIT技術者不足を受けて、外国人エンジニアを積極的に採用していく動きが見られます。中でも人気を集めているのが、ベトナム人エンジニアです。国土交通省(2019)によると、在留資格を持つ技能実習外国人のうち45%はベトナムから受け入れており、次ぐ中国やフィリピンと比べても圧倒的に受入人数が多い国になっています。

さらに、日経XTECH(2017)によれば、ベトナムでは現在IT技術者を倍増させようという野心的な計画があり、2017年当時30万人だった同国のIT技術者を2020年には2倍の60万人まで拡充し、政府と民間が力を合わせて、同国のIT分野での競争力強化に注力しています。日本にとっては、難易度の高い日本語を積極的に学び、IT分野にも精通している人材が増えることは朗報と言えるでしょう。

オフショア
関連資料:
平成29年度末 在留資格「技能実習」総在留外国人国籍別構成比(%)(出典:技能実習制度の現状 – 国土交通省
ベトナムのIT技術者倍増計画、日本には朗報?(出典:日経XTECH

今回は、大手IT企業や広告代理店などでエンジニアを務めた後に、ベトナムでオフショア開発拠点を立ち上げ、現在代表としてご活躍されている土屋さんから、ベトナム人と働く魅力や苦労、海外メンバーを採用・マネジメントしていく方法をお送りします。

土屋 則幸 氏 | REGAIN DATA LAB.Co.Ltd
2002年に慶應義塾大学卒業後、ニッセイ情報テクノロジー株式会社へ入社し、2年間システム開発に従事。
株式会社アサツーディ・ケイに転職後、社内システムの導入・運用に1年間携わる。
2005年からダブルクリック株式会社(現Google)で広告配信系プラットフォームのソリューションコンサルタントとして6年間務め、その後はネオキャリア株式会社で経営企画執行役員としてITスクールの立ち上げ等を担当する。2016年からREGAIN GROUP株式会社でベトナム・ハノイ開発拠点の立ち上げから運営まで行い、現在はベトナム法人リゲインデータラボ代表取締役会長兼社長。

様々な業界を渡り、エンジニアを経験

エンジニア

エンジニアになろうと思ったきっかけを教えてください!

慶應義塾大学在学中は、フランス語の研究会に所属し後に大学の教材として採用されるようなフランス語のe-learning教材を作っていました。それ以外にも、個人事業主として色々とやっていて、関電工さんのロゴデザインやイベントのOP映像、ソフトバンクさんのe-learning教材なども作っていました。その当時からモノを作って、多くの人に見てもらうことが楽しいと思っていたんです。

そのような大学時代の経験もあって、ファーストキャリアではエンジニアをやられたんですか?

Webサービスやアプリを作るぞとなった時に、一人で作れる範囲は狭いので、チームで作る場合には上流設計を勉強しなければなりません。そういうMLやRFP、受発注のルールなどといった上流設計を学ぶために、生命保険システム開発の最大手の企業へ入社しました。ニッセイ情報テクノロジーは保険や銀行のATMを取り扱っているので、完璧な基本仕様書・詳細設計書・テスト項目書を作っているような会社であり、当時私自身も生協さんの共済システム開発に携わっていました。

IT

その後は大手広告代理店のアサツーディ・ケイに転職されたんですね?

基本設計書を書けても、お客様の立場が分からないとモノって売れないので、企業がモノを買う論理を知るために、アサツーディ・ケイに入り、情報システム局でシステムやPCの導入を担当しました。当時、システム局のサーバールームでは、ここからここまでは富士通さんのサーバーで、反対側は東芝さんなどと各メーカーで割り当てが決まっていました。なので、そういう広告代理店に「これ良い商品なので買ってください!」と一生懸命PRしてもあまり意味がなくて。事前に割り当てが決まっているバーター取引なんだとその時に思いましたね。

その後、ダブルクリック(在籍時2007年よりGoogle傘下)へ参画された理由は何でしたか?

前職で様々経験をした後、自分で有名かつ立派なサービスを作りたいと思いました。ただ、ビジネスの基本って今あるモノを知らない人に売るか、今いるお客さんに新しいモノを売るかしかなくて、自分で起業して新しいモノを今いないお客さんに売るのは無茶だと思ったんです。ダブルクリックでは、日本大手企業のメディアを作っていて法人をお客様に持っているので、普段面倒を見ているお客様に、こういう新しい広告商品を作ってみませんかと言うと使ってもらえます。そういうところが企業に所属するメリットであり、逆に私が個人で作って同じことを言っても、絶対に売れないと思うんです。

2014年からネオキャリアで経営企画執行役員をやられている間、エンジニア以外の業務も担当されていたんですか?

はい、エンジニアも含めて色々とやっていて、派遣事業向けのシステムが壊れた時には社内SEを担当していました。他にも、当時のネオキャリアの社長からITスクールを立ち上げてと言われ準備を行い、初月から100人以上、年間で1000人以上の受講生集めたこともありました。今でこそプログラミングスクールはたくさんありますが、当時はその走りをやっていましたね。また、ネオキャリアの子会社であるアクサス株式会社では、システム受託開発・エンジニア派遣のサポートをしていました。

なぜベトナムではIT人材が増えているのか

ベトナム

土屋さんは現在、ベトナム法人のオフショア開発拠点で代表を務められています。ベトナム人は仕事の対価として「やりがい」や「スキルアップ」を求めていると伺いましたが、どういった場面で感じられましたか?

前提として、ベトナムは高度経済成長期の真っ最中なので、子どもがどんどん生まれ、国民の平均年齢はなんと29歳です。国民の平均月給は5万円ですが、インフレ率は約8%なので毎年8%給料が上がっています。国自体が猛スピードで成長しているので、個人も成長意欲が強く、そうでないと取り残される雰囲気なんです。そんなベトナム社会で頭の良い人が目指す職業は、共産党員か外国資本が流れる企業で、オフショア開発のエンジニアもその内の一つです。

最近は、日本でベトナム人のコンビニ店員さんや工場作業員をよく見ると思いますが、彼らの中には日本のコンビニで日本語を覚えてベトナムに戻り、日本語とベトナム語ができるブリッジSEになって月60万円以上稼ぐ人もいます。平均月給5万円の中の月給60万円ですから、日本人の感覚だと月給200-300万円稼いでいるような感じです。ベトナム人にとって、日本はそういう夢のある国なので、情熱を持って働く人が多いわけです。

土屋さんが現地エンジニアを選定する時に、基準として求めていた事はありますか?

意思疎通が図れるかどうかですね。これは言語というよりも、エンジニアには「システム設計の仕様書をUMLで書いて説明ができるか」を求めていました。間にカタコトのブリッジSEを入れても、プログラマーが言っていないことを間違えて伝えてしまうことがあります。なので、面接時には過去にやったプロジェクトをUMLの図だけで説明してもらって、意思疎通ができれば日本語が話せなくても大丈夫でした。

そういう意味では、図さえ書ければ、英語力は必要ないですか?(笑)

親睦を深めるために、飲み会でのコミュニケーションは必要ですけどね(笑)でもエンジニアの仕事では、図さえあれば会話はほとんどしなかったです。

海外のエンジニア達メンバーと働く魅力と苦労

PM

海外のエンジニアをマネジメントしていた時の苦労を教えてください!

強いて言うのであれば、ベトナムと日本の文化の違いについては努力しないといけないなと思いましたね。例えば、チームで飲み会を開くと、割り勘という文化がないので男性が絶対に払います。また、女性へプレゼントをする日が年3回ぐらいあって、日本のお土産を買って渡してましたね。後は18-20歳ぐらいで早く結婚する人が多いので、そのお祝いで色んなプレゼントを用意してました。

なぜそこまでしていたかと言うと、チームで仲良くなってプロジェクトを成功させたいという気持ちもありますが、それ以上に引き留める意味合いが強いです。ベトナムはリファラル採用が主流なので、例えばPMが転職すると、その部下たちも一気に辞めてしまうなんてこともあるんです。更に年金やボーナスなど、会社に蓄積されていく財産の仕組みがないので、軽い気持ちで転職してしまいます。

最後に

海外進出やオフショア開発を検討している企業へ一言お願いします!

ベトナムなどでプロジェクトを成功させて、長続きさせている人に共通しているのは、人件費が安いというだけで選んでいるのではなく、本気で「ベトナム社会を成長させたい」と思っているところです。彼らの給料が高くなったら困るというより、彼らの給料やスキルアップの助けになりたいと思う人が成功しています。逆に安いから使っている人は、その考えが態度に表れます。なので、2泊3日で社員旅行に行ったり運動会をやったりして親睦を深めることによって、みんなで成長していくという意識・気概があれば上手くいくと思います。

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