オフショア開発のポイント〜対話を通してエンジニア一人ひとりの心を動かすこと〜【SCSK株式会社 山田丈志氏】

オフショア開発を利用することによって、開発に必要な費用を減らし、IT人材を効率的に確保することができます。コスト効果に焦点を当ててみると、オフショアで開発をした場合は平均で30.7%ものコストが削減できたと回答しています(オフショア開発白書2021年版参照)。

また、AI開発・ブロックチェーン開発・IoT開発などに対応できる日本人のエンジニアは大幅に不足しており、近年ではコスト削減以上にそういったリソースの確保のためにオフショアを検討される企業が多いようです。

オフショア

関連資料:
国内と比較した場合のオフショア開発におけるコストダウン比率(出典:オフショア開発.com オフショア開発白書2021年版)

その一方で、言語、文化の違いから生じるミスコミュニケーションによってプロジェクトがうまくいかないケースも存在します。これまで海外エンジニアをマネジメントされていた方々にインタビューをしてきましたが、多くの方が仰っていたのがこのミスコミュニケーションです。

オフショア

関連資料:
オフショア開発企業に感じた課題(出典:オフショア開発.com オフショア開発白書2021年版)

オフショア開発白書2021年版では、多くのオフショア開発を委託した企業が、委託先に対してコミュニケーション力・品質管理・納期管理などのマネジメント面について課題を感じています。実際に現場ではどのようにしてその課題に対処しているのでしょうか。

今回は新卒で株式会社ワークスアプリケーションズに入社し、シンガポール拠点の立ち上げに携わった後、シンガポールにてNTT DATA Singaporeのシニアプロジェクトマネージャーを務めた山田さんから、日本と海外のギャップ、海外人材マネジメントする際のポイントなどのお話を伺いました。

山田丈志 氏 | NTT DATA Singapore
東京農工大学卒業後、2006年に新卒で株式会社ワークスアプリケーションズへ入社。初期立ち上げから製品稼働までを担当する。
2013年より同シンガポール支社にて、日本とシンガポールのブリッジ開発マネジメントやHUE SCMシリーズCost部門の新規立ち上げ・開発に携わる。
2019年からはNTT DATA Singaporeにて、シニアプロジェクトマネージャーとしてシステム開発の運用・開発を担当。

開発スキルゼロから海外拠点の立ち上げに

エンジニアになったきっかけを教えて下さい

元々スキルはゼロでしたが、ワークスアプリケーションズに新卒で入った時に開発を選んだのがきっかけでした。当時の会社の方針としては1年くらいやっていけば、ゼロからでも技術的な部分は身に付いていくというスタンスで、それよりもクリティカルな思考ができるかどうかが重視されていました。

海外と関わるようになったのはいつですか?

入社後5年くらいは日本で開発、導入プロジェクトに携わっていました。その後日本に採用市場の人材は取り尽くしていたので、海外人材を採用するためにシンガポールに拠点をつくることになりました。現地にECのプロダクトを導入することになり、その際に私が選ばれました。

シンガポール

オフショア開発にも携わっていたのですよね?

前職も現在も海外のグループ会社や協力会社にタスクを渡していたという意味では携わっていました。ただ、前職ではオフショアという言葉をあまり使わずに、役職も給与体系も同じグループ会社や海外の協力会社にタスクを振る、丸投げではなく一緒に仕事をしているという認識で開発をしていました。

日本と海外のギャップ

突然海外に行って苦労したことはありますか?

何も用意されていないところでイチからつくりあげていく苦労はもちろんはありました。それ以外だと、海外エンジニアのマネジメントの面があります。最初の頃は「日本の1年目だとこれくらいできる」のように日本の思い込み, バイアスで仕事をしていた節がありました。自分がつくったものに関してはそれなりのクオリティをもって提出してほしいと思っていますが、各エンジニアに仕事をふって、製品を作ってできましたといって提出されたものが「テストは後でするからとりあえず出せばいい」と思って提出されたことがありました。そうすると大きな戻りが発生し、ロスになってしまいます。自分の期待値が伝わっていないところが大きく、そこが一番難しかったです。

どのようにしてそのような認識のずれを合わせていきましたか?

会社のミッションは日本の開発文化を海外に持っていって海外に開発部隊を作ることでした。線引きは難しいですが、基本的には根っことしてワークスアプリケーションズの良いところは残しながら、後は現地のルールで柔軟に対応しました。例えば、3時のティータイムをする代わりに与えられた仕事に対してはきっちりとやってもらうというような形です。フルフレックスだったので対応できた面もあったかもしれません。仕事に楽しさを見出してもらうことを心がけていました。

日本のルールは海外にフィットしましたか?

100%日本と一緒ではありません。オーナーシップという点では、教育をしました。特に、会社の方針でやっていいこと・悪いことははっきりさせるようにしていました。刻まれた文化を変えることはかなり難しく、新卒をとるようにしていました。テクニカルな部分は1年あれば問題ありません。

最近はテクニカル部分が追いつかなくなっているため、ベストにいいメンバーを集めたほうが楽な部分もあります。

海外人材をマネジメントする際のポイント

マネジメントをする上で大切にしていることはありますか

会社のミッションをブレイクダウンして個人のミッションを伝えることです。与えられた仕事に対して意味を見出してもらう、理解してもらうことを心がけています。海外エンジニアとの関係ではそこが伝わりにくいのが大変なところです。

仕事に意味をもって仕事をしてもらうために、自分、会社の期待値を説明し、そこに対して心からのモチベーションを持ってもらって一緒に開発を進めていきたいと思っています。

マネジメント

課題に感じていることはありますか?何かエピソードもあれば、合わせて伺いたいです!

委託元と委託先でコミュニケーションが足りていないがために、二者間で大きなギャップがあることです。以前、シンガポールからインドの協力会社へ業務委託の形で開発を頼んだことがあります。こちらには協力会社の方と同じ言語を話せるインド人もいたので、言語の問題はなくお願いができると思っていましたが、手痛い失敗をしてしまいました。

原因の一つは、委託元側から委託先への詳細な情報共有が全然できておらず、委託先も詳細を聞かずに腹落ちしない状態で開発を進めてしまったことです。委託元はもっと細かく説明して、アウトプットを細かくチェックするべきでしたし、委託元も委託先ももっと当事者意識を持って、コミュニケーションをとるべきだったと思います。

今後の展望を伺いたいです!

今の仕事においても、コミュニケーションをとって、やりたいことをしっかり伝えることが重要だと思っています。その人が本当にやりたいと思ってやってもらわないと、どんな仕事もうまくいかないです。会社軸でのメリットも大事ですが、現場側のメリットもしっかり伝えることも重要ですし、そのためには現場のこと・関わる人のことを理解しないとそのメリットは押せないです。また、お客様にも当事者意識を持ってもらい、実現したいことを現場までしっかり伝えていく。そういう部分を浸透させていきたいですし、今後も大事にしていきたいなと思っています。

最後に

エンジニア

今後、海外に進出していく企業に向けてメッセージをお願いします!

今のIT社会において日本の優位性はなくなっています。日本のエンジニアの技術は世界基準にフィットしなくなって来ています。ここから先、オフショア開発を行おうとしている場合には当事者意識とオフショア先の技術へのリスペクトをもって、サポートすることが重要になってくると思います。そのためには、エンジニアは厳選して素晴らしい人材をあてがい、ITの知識をもってコミュニケーションをとっていく必要があります。


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