今回は「海外 x ITエンジニア」という切り口で、CTO2人による対談形式のイベントを開催しました!
2030年までに79万人という数のエンジニアが不足する日本で、外国人エンジニアを活用していくことは、経営者・CTO・VPoEだけでなく、PM/SEの時点から考えるべき内容となってきました。
今回はベルトラ株式会社で開発責任者として上場を経験し、現在はマレーシアを拠点に自身でもオフショア開発事業を行っている松尾さんと、元楽天でシンガポール支社立ち上げに携わり、現在はMOON-X株式会社のCTOとCTO養成講座のOCTOPASSでメンターを務める塩谷さんにご登壇いただき、外国人エンジニアのマネジメントについて実際の事例を交えたお話を伺いました。
前編では、リモートワーク時代で気をつけるべきこと、文化が違うことによる価値基準の違い、満足感を持って働いてもらうための工夫などを伺いました。
松尾直幸 氏|VELTRA Malaysia Sdn Bhd
九州工業大学卒業後、国内大手SIerに入社。Wimaxの開発に携わり社内の代表として海外イベントに参加。
インドで4番目の大手SIerに転職し、国内大手自動車会社のアドミンシステムをインドオフショアで開発するブリッジSEとして活躍。その後、エンジニアリングを行うため5名で東京、マレーシアの2拠点に会社を設立。CTOとして現地クアラルンプールのITチームビルディングおよび教育を行う。2011年、国内旅行会社ベルトラへ転職。システム構築・社内開発チーム立ち上げを行いシステムの完全マイグレーション成功させる。
その後、マレーシアに開発ブランチを設立。現地ダイレクターを行いながら、東京・マレーシアの2拠点を成長させる。2018年には執行役員の立場でマザーズ上場にも関わる。また、フィリピン法人のM&Aにも現地法人のシステムデューデリ、エンジニア評価などITチームに関わる全てを行った。
塩谷将史 氏 | MOON-X株式会社、OCTOPASS
大学卒業後、Full Stack Engineerとして6年間様々なシステム、ネットサービスの開発に従事。
2008年に楽天に入社し、主に楽天の広告プラットフォームやAd Tech・Big Data系システムをプロデュースし、約50名規模の開発組織をマネジメント。
2012年シンガポール支社立ち上げに参画し、3年間でシンガポール・日本・インドの3拠点で約100名の多国籍・多拠点エンジニア組織を0から立ち上げ。グローバル広告プラットフォームの企画、開発、導入も指揮。
楽天退職後、2016年に株式会社アペルザを共同創業し取締役CTOに就任。製造業に特化したサーチエンジン、マーケットプレイス、クラウドサービスなどを立ち上げる。2019年7月にアペルザを退任。
2019年8月にD2Cのマルチブランドを展開するMOON-X株式会社を共同創業。消費者向けブランドをテクノロジードリブンで立ち上げ中。
本業のかたわら、インターノウス株式会社が主催するCTO養成講座OCTOPASSをメンター/エバンジェリストとして支援。また、大小様々な企業のプロダクト開発・開発組織マネジメントアドバイザも務める。
リモート会議では誰一人取り残さない
マレーシアに住んでいる松尾さん、今の状況についてお聞かせください!
松尾さん:
皆さんもニュース等で見られているかもしれませんが、現在マレーシアでは新型コロナウイルスの感染者が急増していまして、6月頭からロックダウンになっています。日本と大きく違うのは、マレーシアでは軍や警察が出てきて、行動を法的に縛るということ。日本のようにお願いベースではないので、外に出ると銃を持った軍隊が取り締まっていますし、マスクをしていないと警察に3万円の罰金など、緊急事態宣言とは比べ物にならないくらい本気のロックダウンをしています。
お仕事の面では影響はありますか?
松尾さん:
これまでずっと日本とマレーシアを往復する生活をしていて、コロナ前も遠隔マネジメントしていたので、他の業種に比べるとそこまで影響は少ないかなと思います。ただ、WFHは寂しいので、メンタル面が気になります。
塩谷さんがシンガポールにいらっしゃった時は、どのようにマネジメントをされていたのでしょうか?
塩谷さん:
私がシンガポールにいたのは2012〜2015年だったので、コロナは関係ないのですが、当時からリモートで働くのが当たり前の環境でした。楽天は世界中に拠点があったので、日本も含めて世界中に出張しながら、日本・シンガポール・インドのメンバーを中心のチームを作って、リモートで会議などをやっていました。その準備なしにコロナになった企業は大変だと思います。
オンラインでのコミュニケーションで心がけていたことはありますか?
塩谷さん:
会議の参加者全員がリモートだったらスムーズなんですが、数人だけビデオ会議で残りは対面で会議室にいる時、対面の人だけで話が進んで決まってしまい、オンライン側の人が取り残されてしまうことがあるんです。そういう時はお互いに全員の顔が見えるようにして、オンライン側が取り残されないようにファシリテーターが気をつける。これはどんなリモート会議でも大事なことだと思います。
多国籍な環境下でリモート会議をする際にどんなことを意識されていましたか?
松尾さん:
塩谷さんが仰っていたことは私も共感します。私はマレーシアからで東京とリモート会議することが多いんですが、東京側で笑い声だけが聞こえてきた後に突然話を振られたりしても、リモート側と対面側で空気感が全然違います。そういう時に疎外感を感じますね。それに、海外メンバーがいる時は、どうしても日本語じゃないと伝わらない場合以外、英語で会議を進めます。日本語が分からないメンバーがいる中で、日本語で自分の名前が出てきたら印象良くないですからね。
加えて、マレーシアは陽気な人が多いので、カチカチに仕事をやって終わりではなく、仕事に関係ない雑談もしていました。例えば、東京にいる時は東京のコロナはこんな状況だよ、冬で寒くなってきたよ、など心の距離を縮められるように、特に会議の初め5分と最後5分は仕事じゃない話をしていました。
文化が違えば、優先順位も違う
塩谷さんは、シンガポールとインドで何を意識されていましたか?
塩谷さん:
この2カ国は全然違う環境でした。シンガポールは完全に多国籍で、メンバーのほとんどは海外出身(インド、中国、マレーシア、ベトナム、インドネシア、ロシア、日本など)でした。その国の文化に合わせにいくというよりも、多様性を楽しみながら多様性を消していくために、みんなで共通に理解できる価値は何なのかを決めていました。一方でインドでは、インド人しかいなかったので、彼らがどういうやり方でやっていきたいのかに合わせて、仕事のスタイルを決めていました。
国によって、働く上での価値基準は変わってくると思いますが、どうでしたか?
塩谷さん:
全然違いますね。一番よく思ったのは、プライベートや家族に対する優先順位が圧倒的に違うことです。日本以外の多くの国では、基本的にはどんなに仕事がトラブっていても家族が最優先。それは仕事に対する責任感がないというわけでは全くなく、人生がそういう設計になっているのに対して日本人的な感覚で仕事を優先させようとするのは、ほとんどのケースで間違えているという意味です。そこは、国によって違うというより日本と違う部分です。だからと言って遠慮していてもしょうがないので、会社としてはこういうことをやってほしいと伝えることはもちろん必要です。
松尾さん:
敢えてマレーシアにフォーカスすると、宗教の違いが大きく、主にイスラム教・仏教・ヒンドゥー教がいて、それぞれ仕事に対する考え方や時間軸が違います。例えば、イスラム教にとって金曜日のお祈りはすごく大事なので、金曜日は昼休みを長くとるような形にしていますが、エンジニアは裁量労働制をとっているので、30分ぐらい抜けても大丈夫です。そしてラマダン(日が出ている間は食事をしない)の時は、渋滞を避けるために1時間早く出社して、昼休みをとらずにぶっ通しで働いて、定時より2時間早く帰宅し、家族と夕食を楽しむという働き方をしています。以前、現地のマネージャーと話した時、中華系・インド系はマレー系の文化を理解しているし、自分たちには関係ないと言われ、綺麗に文化が分かれていました。
色んな文化が混ざり合う中で、そのチームをマネジメントしていくコツを教えてください!
松尾さん:
それぞれが大切にしていることを理解して、尊重するしかないと思います。塩谷さんも仰っていたように、甘くなるわけではなくて日本人として譲れない部分もあるわけで、時間厳守や会議の30秒前には部屋に入るようにしたりと、日本人が大事にしていることも伝えています。お互いの文化を尊重する部分と譲る部分をはっきりさせるのが大事だと思います。
塩谷さん:
シンガポールも時間にはルーズで、時間軸が国や文化で違います。日本は秒単位分単位で動いていますが、日にち単位・太陽が昇る沈むで動いている人もいて、入社1日目から遅刻してくる人もいたほどです。楽天は時間厳守の文化だったので、みんなの文化は知りつつも、偉人の言葉を借りて理解してもらいました。例えば、スティーブ・ジョブズは時間に厳しくて、遅刻をすることは人の時間を奪っていると言っているのだから、みんなも守ってねと言っていました。ここは日本の会社で、こういうルールでやっているから、あなたの文化は尊重するけど時間は守ってねと最初に説明していました。
お互いの文化を尊重し、譲れる部分を決める
文化の違いの擦り合わせを行う時、どういうことを意識していますか?
松尾さん:
チーム単位でランチに行く時、一緒に参加して話を聞いていましたね。クリスマスパーティどうする?クリスマス祝うなら別の宗教のお祝い事も!みたいな話もしましたし、会社のコアな部分もマネージャーや会計事務所とか入れて、とにかく話を聞いていました。例えば、会社の福利厚生はかなり意見を集めて、他の日系企業やライバル企業を参考にして、決めましたね。
塩谷さん:
会社として譲れないものをお願いする分、みんなの意見もできるだけ聞いて、ギブアンドテイクはしていきました。例えば、楽天では「朝会」といって、社長や各部署からの報告を毎朝日本時間8時から全社員参加でやっていました。現地でいう朝7時からエンジニアを出社させる会社なんて皆無でしたが、最初は何とか出社してもらって、そのまま働いてもらっていました。しかし現地メンバーからそれはおかしいという意見をもらったので、休憩時間を増やして、朝会がある日は4時半に退社する決まりにしました。朝7時に来ることは100%不満を持っていましたけど、意見を聞きながら可能な限り言い方に転換していきました。
海外でエンジニアの満足度を高めるために、お二人はどのようなことを大切にしていますか?
松尾さん:
マレーシアだから、アジアだからではなく、人間全般に言えると思いますが、その人をどれだけ理解して、ちゃんと見てるかをアピールするべきだと思います。例えば、会議をするときもただ進捗だけを気にするのではなくて、他愛もない話をしながら、心が繋がっている・承認されている。理解されているって思えることで人間の満足度を上げられると思っています。特にマレーシアでは今ロックダウンが続いていて、家族がいないと雑談する機会がないので、私とのミーティングが楽しみになってくれると良いなと思いながら、やっています。相手の状況を理解して、話すことが大事ですね。
塩谷さん:
松尾さんが仰っていたように、日本人だから外国人だからというのはあまり関係ないと思います。ただ決定的に違うのは一年ちょっとで転職していくのが当たり前の環境において、石の上にも3年だという話は通用しないことです。以前、私が採用した人が1ヶ月ぐらいで辞めてしまったことがあったのですが、その人のキャリアにとって良い選択だと思って後押ししました。辞めることを悪いと考えるよりも、その人にとって大事なことは何かを話すのが重要だと思ったからです。そういう接し方をしていると、このチームにいた方が成長できるんじゃないのという話になりますし、辞めた後の関係も続きます。私も楽天を辞めたから6年以上経っていますけど、未だに彼らと連絡は取り合っています。
松尾:
日本では、離職・転職は悪だという考えがあると思いますが、海外では全くないです。アイドルグループでいう将来を見据えた卒業であって、脱退ではないので、マレーシアのIT業界のためには転職も後押ししてあげるべきだと思います。
トークセッション後編「海外でのエンジニア採用のリアル、苦労した経験、質疑応答」へ続く
前編では、リモートワーク時代で気をつけるべきこと、文化が違うことによる価値基準の違い、満足感を持って働いてもらうための工夫などを伺いました。
後編では
・海外でのエンジニア採用のリアル:「履歴書で判断できない」苦労した経験が採用の質を上げる
・苦労した経験・エピソード:苦労したことが楽しかった。明確に全部説明し、誤差を修正していく
そして参加者からの質問にも答えていただきました。
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