(後編)IT企業CTOによる豪華トークセッション vol.1【外国人マネジメント編】【VELTRA Malaysia Sdn Bhd Director 松尾直幸氏、MOON-X株式会社CTO 塩谷将史氏】

前編では、リモートワーク時代で気をつけるべきこと、文化が違うことによる価値基準の違い、満足感を持って働いてもらうための工夫などを伺いました。

後編では、海外でのエンジニア採用のリアル、苦労した経験・エピソード、そして参加者からの質問にも答えていただきました。

「履歴書で判断できない」苦労した経験が採用の質を上げる

どういう基準でエンジニアを採用していましたか?

塩谷さん:
シンガポールでは5人でオフィスを立ち上げたので、採用も全面に携わっていたのですが、スキルや技術に着目して転職してくる人と会社やビジネス、マインドに興味を持って転職してくる2パターンがあると思います。まず、スキル・技術で転職する・採用する際は、マッチングして給料が見合ってればいいです。次に、事業やマインド部分に共感してくれた方にとって一番大事なのは、誰の部下になるのか、誰の方向を向いて仕事をすれば良いのかです。上司になる人が良いことも悪いことも全部含めて会社のことをしっかり説明できる必要があります。なので、まずどういう人を採用したいのかを考え、採用したいタイプに合わせた態度でコミュニケーションをとることが大事です。

松尾さん:
私がマレーシアに行った2013年はベルトラが50-60人のベンチャー企業だったこともあり、一番大事にしていたのはファミリー感でした。自社サービスなので、長く働いてもらうこととその人のことを信用できるかを重要視していましたね。なので、技術などの一定ラインは超えた前提で、賢くても何事も割り切って考える人は最初の段階ではお断りをしていて、それよりも性格が合う人を採用していました。

あとは一般的に日系企業は求人を出すとたくさん応募がきますが、レジュメを盛っている人が多くて、エージェントに絞り込んでもらうことで採用コストを下げていました。そしてエンジニアで一番良いのはリファラル(社員に知り合いを連れてきてもらう)で、信用できる知り合いであれば技術も性格も合っていることが多いですし、紹介された人それぞれに紹介料を数十万円渡しても元が取れると思っています。

採用

採用における苦労・失敗談をお聞きしたいです!

塩谷さん:
苦労しかないですよ(笑)現地で採用・マネジメントをするのであれば、死ぬほど苦労して経験することで人材市場のことが分かってきます。先ほど松尾さんも仰っていたように、レジュメを盛っている人もいるので、そういう人を事前に自分が振り分けるのであれば経験が重要です。

シンガポールでは、意外と長く働いてくれる人が多くて、(2012-2015年の楽天シンガポール時代から)今でもいるメンバーもいます。海外の人はすぐ辞めてしまうという先入観はあるかもしれませんが、良い人を見つけると長く働いてくれますし、色々と苦労して上手くできるようになっていくと思います。

松尾さん:
失敗はないですね。と言うより良い人と巡り会うための試行錯誤を経験しました。失敗ばかりだなーと落ち込まずに、塩谷さんも仰っていたように色んな経験をしていくことが大事ですね。良い人はいるし、同じ想いを持っている人もいますけど、どうやって早く出会えるとか・見抜くとかは、人それぞれ違うので何かこれといったテクニックがあるわけではないです。

新しいメンバーがジョインする際にどんな工夫をされていましたか?

塩谷さん:
シンプルに「歓迎をすること」が大事だと思います。新しい人が入ってきたら、多国籍でも大丈夫なビュッフェスタイルのお店を見つけて、必ずウェルカムランチをしていました。

ただ、私の職場は嫉妬深い人が多くて、新しい人が来る代わりに自分がクビになるんじゃないかと心配する人もいたので、なんでこの人が採用されたのか、どういう仕事をするのか、みんなとどう関わるのかを示した資料を作って共有をしていました。

松尾さん:
クォーターでパーティをやっていましたね。主催者を当番制にして内容を決めてもらったり、全宗教が食べられる料理を用意したりして、普段関わらない社内の人間ともコミュニケーションをとることを重視していました。

苦労したことが楽しかった。明確に全部説明し、誤差を修正していく

海外の人材マネジメントで大変だったことは何でしたか?

松尾さん:
ACTIONの記事にも書いているんですが、常識が違います。今ここに参加している皆さんに「カレーライスを作って」と言ったら、私たちが想像しているようなものが出てくると思いますが、マレーシアの人たちに同じことを言っても、多分違うものが出てきます。そういう常識の違いはシステム開発でも一緒で、こう作ってと言った時に、普通だったらこういうものが出来上がるだろうという普通が違うのです。なので、どう伝えたら欲しいアプリが出てくるのか、欲しい品質で出てくるのかという伝え方の誤差修正は、3年ぐらいかかってやっと100点を出せるようになりました。これが1番の苦労でしたね。

ただ、逆にそれが一番楽しかったことでもあります。普通に日本で生活してたら起こり得ないことがいっぱい起こるので、苦労=楽しいみたいな表裏でしたね。

塩谷さん:
松尾さんも仰っていたように、私も一番大変だったことが一番楽しかったことでした。多国籍なチームだと、10人集まれば全員常識が違っていて、その常識を埋めるためにはすごく明確でクリアな説明・情報の提供を必要とします。なので、なぜこの仕事をやるのか、なぜそれを私がやるのかを全部説明して、疑問や不信を払拭させていました。その説明コストは鬼のように高かったので、資料や組織図を作って、多国籍な環境でチーム全体のパフォーマンスを上げていきました。とても苦労はしましたけど、その経験は普遍化すると色んな場面に適用できるので、一番楽しかった経験とも言えます。

プロジェクトマネジメント

苦労をされた時にどういうマインドで乗り越えられましたか?

松尾さん:
そもそも私は自分の意思でその環境にいるので、これをすることが自分のためだと思っていました。特にネガティブになる理由はなかったですよ。例えば、いただきますってなぜ言うの?と聞かれた時に、そういう文化だからと言っても理解はしてもらえないですよ。でも、農家が苦労し動物の命を頂いているからその感謝を伝えていると、説明をすれば彼らのいただきますへの敬意は素晴らしいものになるはずです。

塩谷さん:
私も根がポジティブだったのと、会社のミッションを背負って来ているので、それを何とか達成したいというのが一番大きかったですね。その中で、自分がものすごい成長できるし、成長している実感をものすごく感じていたので、そこが単純にモチベーションでした。

ただ、私のような駐在員あるあるなのですが、本国との調整が本当に大変で、それを「OKY(お前、来て、やってみろ)」と言ったりします。本国は現地の状況を報告でのみ判断しますが、報告していないことでも現地では色んな事件が起こっていて、そこの調整に疲弊してしまう方は多いですね。特にドメスティックな会社が海外進出をするようなフェーズだと、本国の理解力・理解度が高いかどうかで、現地の負担が大きく変わります。

塩谷さんと松尾さんへの質問コーナー

松尾さんが冒頭に仕事だけの付き合いだけでなく、心の距離に気をつけていたと仰っていましたが、外国人との心の距離を縮める施策として、プライベートと普段のコミュニケーション方法で有効なものを教えていただければ幸いです。

松尾さん:
正直に生きて、相手の懐に踏み込んでみることかなと思っています。私は文化や宗教について、リスペクトしていると伝えた上で色々と聞いてみたこともありました。相手が自分のことに興味を持ってくれているなと思ってもらえると、プライベートなことでも結構答えてくれますし、心を開いてくれると思います。

塩谷さん:
松尾さんが仰っていたように、相手の家族・国・文化・宗教に興味を持ち、質問をすることはとても大事です。そのためには自分のことも曝け出していき、お互いに興味を持ち知り合っていきます。そうすると、どんどん仲良くなって、仕事以外のところでも繋がりを持てるとお互いをリスペクトするようになると思います。

コミュニケーション

日本は長期雇用だからこそOJTに力を入れられますが、海外はどうですか?スキルベース採用と転職率は一長一短だと思ったのですが。

塩谷さん:基本的には長期雇用ではない前提で、OJTという感覚ではなくて、新卒でも自分にはスキルがあるから即戦力だと思っている人が多いです。シンガポールでは3ヶ月の試用期間を乗り越えることが重要で、そのためには教育してやろうというより、入社1日目から働いて成果を出してもらうぐらいの気持ちで良いと思います。

松尾さん:
日本のように新人研修はやらないです。1-2週間はインプットしますけど、基礎知識さえあればあとは現場で覚えるようにすれば良いと思いますよ。

エンジニアの離職についてお話がありましたが、一度他社へ転職して数年経ってから戻ってくるエンジニアはいらっしゃいますか?またエンジニアの方が再度ジョインした時に働く環境の変化はどういった影響がありますか?

松尾さん:
最初の質問はイエスですね。どちらも悪い気はしないですし、他に行って色々経験した上でまたうちに来てくれるのであれば、こっちもウェルカムなのでぜひ入ってほしいです。能力がすごい伸びて役職が変わるとかはありますけど、環境の変化も特にないと思います。誰もが出戻りは歓迎しますよ。

塩谷さん:
私も全く同じですね。出戻りはいっぱいいましたし、みんなプロなのでプロとして仕事をうちでやることになったというだけです。

転職時、面接時点だとなかなか社内の状況が分からなかったり、内部事情が分からないと思います。もし転職したい場合どのように判断すれば良い企業様を見分けられるでしょうか?

松尾さん:
会社と言っても、最初の数ヶ月で関わる人間って上と横と下だけで他部署の人とはあまり関わらないと思うので、自分が直接関わる人がどういう人なのかを見抜けば良いかなと思います。面接って候補者だけが一方的に見られるわけではなくて、こっちもその会社を見て、働く同僚と話してみて、職場の雰囲気を見てみてはいかがでしょうか。

塩谷さん:
海外だったらLinkedInで連絡すれば結構教えてくれますよ。元々その会社にいた日本人とかに、今度転職しようと思っているんだけど、どうでしたか?と聞いてみるのが一番確実だと思います。そういう方にあたってみると良いんじゃないでしょうか?

オフショア

一番酷かったレジュメの嘘はどのようなものですか?外資系に転職するにあたってバックグラウンドチェックの厳しさに辟易したばかりなので、そういうことかと納得しました。

松尾さん:
PHP入門という本を読んだだけで「PHPできます」と書いてるとか(笑)細かいところまで聞いてみると答えられなくなるので、そこでチェックはできますね。

塩谷さん:
本で読んだだけで書けるとか、知っている技術用語をとりあえず全部書いてみたとかはあるあるですね。そこでリファラルチェックをしている会社は多いです。例えば部下が私に、辞めようと思っているので転職先にリファラルを送ってほしいと言われたこともあります。そういう環境なので、質問者の方が厳しいチェックにあうのは当たり前だと思いますし、自分のバックグラウンドを保証してくれる人を常に見つけておいた方が良いと思います。

エンジニアの評価方法はどのようにしていますか?また昇給額はどのように決めていますでしょうか?

塩谷さん:
基準を明確にして、フェアにすることですね。特にシンガポールみたいな多国籍で給料にもうるさい環境では、昇級額のテーブルも決めちゃった方が良いですね。

松尾さん:
評価基準は日本人もマレーシア人も一緒なんですが、この評価なら日本人は600万円で、マレーシア人は現地で600万円相当の額にしています。ただ、マレーシアは発展途上国で国の物価が上がっているので、毎年5%は必ず上げるようにしています。

海外人材のコストは近年増加しており、日本の人材の方が安いみたいな話を聞きますが実際どうですか?

松尾さん:
私たちは安さだけを求めて海外に出ているわけではなく、やはり日本の人材枯渇が深刻なんです。グローバルに会社を展開していくには、英語・中国語ネイティブのマレーシア人は大きなメリットもあります。日本人相手だと日本語の資料を英語に訳すためにプラスのコストもかかりますし、コストだけ見ても日本はあまり良くない場合もありますし、それ以外にも海外人材のメリットも検討する必要があります。

採用の際に必ずしていた質問はありますでしょうか?

塩谷さん:
私はないですね。フィーリングを見ているので、その人のタイプに合わせて変えていきますし、シャイな人とそうでない人でも全然違うので、本心を引き出す感じです。

松尾さん:
私も絶対聞くわけではないですけど、会社に求めることで大切なことを3つ教えてくださいはよく聞いています。聞いた瞬間、反射的に出てきた1個目が本心だったりします。ただその答えが大事というより、その方との会話のやりとりのプロセスを見るために聞いています。

松尾さん・塩谷さんへの個人インタビュー記事もぜひご覧ください!

松尾さん:
オフショア開発では「常識を捨てる」~エンジニアのプロジェクトマネジメント~【VELTRA Malaysia Sdn Bhd 松尾直幸 氏】

インタビュー

塩谷さん:
(前編)エンジニア的思考を持った起業・仕組みづくりの重要性【MOON-X株式会社 塩谷将史 氏】
(後編)シンガポールでは「フェアでオープンな環境」を作れ【MOON-X株式会社 塩谷将史 氏】

インタビュー

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